秋と冬のちょうど間

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まだ11月にならぬ頃、旧市街のショーウィンドウで焼き栗を思わせるような服を見た。店はつい最近開けたばかりで、Piazza Maggiore から直ぐ其処に在った。特別な店ではないがショット一工夫のある衣服を置いているらしく、例えば全く違う柄の大判のシルクスカーフを2枚縦に縫い合わせてあったり、コートにしても普通の形とは少々違っていて、店の前を通る人々の歩調をいやでも緩めさせた。一度だけ女友達と入ってみた。例の大判のスカーフ2枚縫い合わせは、実はフランスで見つけてきたヴィンテージのスカーフを2枚縫い合わせたものだったり、とやはりほかの店にあるものとは少し違っていた。それにしてもショーウィンドウの栗色の服は魅力的だった。眺めていると焼き栗を欲しくなった。どうせ行くならいつもの店。いつもの店とは仕事帰りのバスの中から見える緑色に塗られた小屋のような店で、夏にはメロンやスイカを売る、あの店のことであった。それでいて明日こそ、来週こそ、と言いながら、何時も先延ばしにしていたのは雨のせいだ。雨降りの日は途中下車するのが嫌だったからだ。何故と訊かれてもわからない。そういう心境だったと言うしかなかった。

あのショーウィンドウの栗色の服を見てから4週間も経って、私は若い女の子とようやく焼き栗を食べに行った。若い女の子と言っても彼女はもう学生ではなかったし結婚もしているけれど、それでも私から見れば若い女の子と呼ぶに値するように思えた。店は繁盛していた。夏にメロンを食べに来て以来だから3,4か月が経っていたが店主の青年は私達を覚えていたらしく、やあ、いらっしゃいと迎えてくれた。200グラムの焼き栗に温かい赤ワインを2杯注文した。それにしても、昨年の今頃の客ときたら犬連れの老人ばかりだったのに、今年は妙なことに若々しい女性ばかりが次から次へと店に入ってくる。私と女友達はその様子を眺めながら驚き、若い店主もさぞや喜んでいるに違いないと、くすくす笑いが止まらなかった。向こうのテーブルの女の子たちはどう見ても18歳くらいだろう。今どきの若い子たちは栗なんて食べないと思っていたが、美味しいものは美味しい、年齢は関係ないようであった。栗の焼き具合は丁度よく、甘くてふっくらとしていた。指先を黒くしながら栗を剝いては口に放り込み、時々温かい赤ワインを口に含んだ。2人で11ユーロ。仕事帰りのお喋りには丁度よい。それにこんな美味しくて楽しい時間は焼き栗ならではなのだから。こんなに沢山の女性が来る楽しい商売、やめられないよね。勘定を済ませながら女性客が妙に多いことを指摘すると、若い店主は嬉しそうに表情を緩めた。また来るから、と言って店を出ると北風が吹いていた。剥き出しの手がすぐに冷たくなった。秋と冬のちょうど間に居る、そんな感じがした。

あと数日で11月も終わりだ。


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コメント

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2013/11/27 (Wed) 08:27 | # | | 編集

こんばんは。
ah2012から、Alpesに名前を変更しましたので宜しくお願いします。

四季の移り変わりとともに、四季折々の美味しい食べ物をいただくことはとても豊かなことですね。

2013/11/27 (Wed) 16:19 | Alpes #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

鍵コメさん、こんにちは。イタリアの焼き栗は日本の焼き栗とは全くかけ離れているんですよ。お洒落感は全くありませんが、大粒で素朴でほくほくしていて昔の味がします。一度食べてみてもらいたいです。ヨーロッパの冬に焼栗抜きはあり得ません。どの町でもどんな小さな町にも焼き栗屋は必ず存在するのです。
イタリアの焼き栗は熱々です。殻を剝いて、中の栗自体は薄い黄色です。しかし確かに栗のクリームは茶色ですね。私は焼き栗屋さんで栗のクリームを購入したのですが、夢のように美味しかったです。毎日薄く切った黒パンに塗って食べていおます。ご近所に住んでいたらおすそ分けしたいくらいです。

2013/11/27 (Wed) 23:59 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

Alpes さん、こんにちは。改名ですね。
どの季節にも似合った美味しいものが存在しますね。健康の秘密は季節のものを食べること。と、ずっと年上の友人が教えてくれました。全くその通りですね。それに心も豊かになりますね。

2013/11/28 (Thu) 00:02 | yspringmind #- | URL | 編集

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