小さな発見

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毎日が飛ぶように過ぎていく。2年前リスボンで知り合った日本人女性がボローニャに来て、毎日共に遊び歩いているからだ。そんな私を相棒は今夜も出歩くのかとあきれ顔だが、そうそう頻繁に起こることでもなし、私は素知らぬ顔で仕事の後の時間を堪能するのだ。今日はあの店で食前酒を、明日はあの辺りで夕食を。私と彼女はそんな風にして夜のボローニャを彷徨うのだ。そんな彼女はデンマークに立ち寄った際に美味しいものを見つけたと言って私にも土産に持ってきてくれた。それは白くて平たいチーズ。カマンベール風の。表面にはフランネルの種がまぶしてあり、見るからに美味しそうだった。しかし何しろ私は毎晩外で夕食だったものだから、それを頂く暇もなく、冷蔵庫に入れて忘れていたほどである。ようやくそれを食する時間を得て冷蔵庫を開けたら、びっくり、半分が無くなっていた。どうやら私が留守の間に相棒が頂いたらしかった。まあ、宜しい。残りの半分は私が頂けばよいことである。さて、赤ワインが注がれたグラスを片手に小さな一切れを口に放り込んでみたら、あっ、美味しい。一瞬バターではないかと思うほど、口の中で溶けてゆく。何が起きたのか分からず、それを確認するためにもう一切れ口に放り込んだ。その途端、口の中で溶けてゆく。チーズの包み紙に張り付けられた文字はデンマーク語。読んでも理解ができなかったが、彼女がチーズと言っていたのだからチーズなのだろう。しかしそれが本当ならば、これは大変なことである。デンマークのチーズは、もしやイタリアやフランスのそれよりも上質で美味しいのではないだろうか。と、その時、半分を留守の間に頂いてしまった相棒が戻って来た。随分気まずそうな表情をしながら。そしてこのチーズは何処から来たものなのかと訊ね、実に美味しかったからまた購入しようと相棒は提案した。そこで実はこれはデンマークに立ち寄った友人が持ってきてくれたものであること、それだから美味しいけれどボローニャでは手に入らないことを説明すると、デンマークなのか、と相棒は心底驚いた様子だった。思うに彼もまた、チーズはイタリアとフランスと思っていたのだろう。デンマークにこんな美味しいのがあるなんて、と多少なりともライバル意識を持ち、そして留守の間に急いで半分も食べてしまったことを後悔したに違いなかった。世の中には私たちが知らないことが沢山あると教えられた秋であった。

知らないことと言えばこんなことも知らなかった。昨日友人と散策の途中に立ち寄ったお茶屋さん。目立たぬ通りに面してあるこの店だが、いつも賑わっている。私たちは席について驚くほど沢山の種類の中からそれぞれ気に入りのお茶を注文した。確か彼女が選んだのは、秋の詩、とか何とかいう名前のハーブティ。私が注文したのは何てことのないダージリン。しかしこのダージリンがボローニャでは本当に手に入らない。数年前まではどの店にもあったこのダージリンが姿を消してしまったのだ。しかしこの店ならばあるに違いないと、注文してみたのだ。すると有ると言う。しかし続けて言うのである。何時摘んだものが良いか、と。はっ? そんなことを訊かれるとは夢にも思っていなかったから開いた口が塞がらず、店の女性の顔をただただ見返すばかりの私。すると、丁寧に説明してくれた。ダージリンと言っても春に摘んだもの、夏に摘んだもの、秋に摘んだもの、の三種類があるそうだ。しかしどれが良いかと訊かれてもそれらがどう違うのかの見当もつかぬ。柔らかい口当たりのものをと苦し紛れに言う私に、それでは夏のものを用意すると言って向こうへ行った。夢にも思っていなかった。驚きではあったが新鮮な驚きで、急に興味が湧いてきた。出された夏に摘んだダージリンは確かにやわらかい口当たりだった。確か春のものは香りが高く、秋のものは風味が凝縮していると言っていた。私はその後者のお茶の葉を100グラム注文して持ち帰ってきた。次は春のものを注文してみようと思う。いつもの生活も宜しいが、小さな驚きや発見も大切だ。そういうことがあるならば、これからやってくる長くて暗くて寒い冬も案外楽しく過ごせるに違いない。持ち帰った小さな袋を相棒に見せた。ほら、秋に摘んだダージリンの葉っぱなの、と言いながら。相棒は私があの時見せた、何を言われているのかさっぱり分からぬ風の顔を私に向けながら、ふーん、と答えた。どうやら私達は似た者同士らしい。近いうちに美味しいビスコッティを手に入れたらばダージリンを楽しむ時間を持つとしよう。知らないことがあるのは決して恥ずかしいことではない。こんな小さな発見がまだまだあるのは素敵なこと。人生は決して飽きないものなのである。


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コメント

摘んだ季節により味が違うというのはとても納得。

でも、ここボルダーのお茶屋さん(お茶専門店)では、
摘んだ季節の違う葉を扱っている店は聞いた事がありませんが
機会があればぜひ違いを味わってみたいものです。

デンマークのチーズ、その口の中で溶けるチーズが輸出されているといいですね。

2013/11/02 (Sat) 23:34 | るみこ #- | URL | 編集

こんにちは。

そのようなチーズがあるのですか?

是非ともチーズの名を教えてください。

あ〜、また太ってしまいそうです。

2013/11/03 (Sun) 07:48 | Via Valdossola #P6wRKz4w | URL | 編集

いつも楽しく拝見しています。コメントするのは初めてです。
デンマークのチーズは本当に美味しいですね。
今までチーズといえば、フランスかイタリアのものが一番美味しいと思い込んでいましたが、数年前、デンマークのチーズの美味しさを知ってからは、北欧料理にも興味津々です。日本ではデンマークのチーズは何種類も手に入ります。ボローニャでも手に入ると良いですね。

2013/11/03 (Sun) 13:13 | ah2012 #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

るみこさん、こんにちは。私はお茶の葉は一定の時期に摘まれるものと信じていたのでかなり新鮮な驚きでした。でも、確かに摘んだ季節により味が違うというのは理解できるというものですね。暫くお茶に夢中になりそうです。お茶の世界って案外深いものなのですね。
それでデンマークのチーズですが、もう直ぐ終わりなんですよ。さーて、どこで手に入れられるでしょうか。探しますよー。

2013/11/03 (Sun) 18:58 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

Via Valdossolaさん、こんにちは。そうなのです、そんなチーズが存在するのですよ。そのチーズの名前はKRONDILD...多分これが名前です。外国のものがたくさん入ってくる日本でしたら案外簡単に見つかるのかもしれませんね。探してみてください。乳脂肪分が高いと思われますので太ることは間違えなしなのです。赤ワインと一緒にどうぞ。

2013/11/03 (Sun) 19:02 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

ah2012さん、初めまして。コメントありがとうございました。ah2012さんはデンマークのチーズをご存知でしたか。私は初めてだったのでかなり衝撃的でした。美味しい。こんなのはイタリアで出会ったことはありません。日本は外国のものが沢山入ってくる国ですね。デンマークチーズが何種類も???素晴らしいではありませんか。ボローニャは同じヨーロッパでありながら近隣国のものがなかなか入ってこないので、根気よく探すことになるでしょう。最後はネットでデンマークから直輸入と言う手もありますけど。
これからもお付き合いお願いします。

2013/11/03 (Sun) 19:07 | yspringmind #- | URL | 編集

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