駆け足

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何時の間に色づいたのか、向こうの木々が黄色い。心躍るような黄色ではなくて、ほっと落ち着くような黄色。その美しさにはっとさせられるような、心を奪われるような黄色。驚くのは時間の経つはやさ。10月になったと思っていたら、あと10日ほどで10月が終わる。どうしてそんなに急いでいるのか機会があれば10月に理由を聞いてみたいものだが、多分11月も12月にしても同じように駆け足で過ぎていくに違いない。

先週、病で家に引っこんでいるうちに体力が随分と低下したようだ。そういえば母が言っていた。病気になって寝込むのは仕方がないにしても、その後が問題なのだ、と。母ほどの年齢になると寝込むことによって体力が低下してしまう、それが問題なのだそうだ。実際私ほどの年齢でも一週間寝込んだだけでこの通り。がっかりだ、と思いながらバスの窓から流れるような景色を眺めているうちに、車酔いしたらしい。もう3つほどでいつも下車する旧市街の中心の停留所だが、どうにも気分が悪い。私は我慢できなくなって旧市街をぐるりと取り囲む環状道路を超えた旧市街の一番初めの停留所で飛び降りた。ここで降りることはあまりない。この辺りはパキスタンやアフガニスタンからの移民が多く、例えば小さな青果店や酒屋、何でも屋が連立している。その合間にイタリア人経営の小売店が存在する、実に奇妙な界隈だ。昔はどうだっただろうと一生懸命思い出してみるが、これといった記憶がない。多分私は今も昔も、この辺りをあまり歩いたことがないようだ。バスを降りたことで少し気分が良くなってきたが、何か冷たいものを胃の中に流し込みたい気分だった。さて。と考えたところいい店を思い出した。この少し先に小さな店がある。表の様子が地味なために、うっかりすると通り過ぎてしまうような店。ところが、この店はこの辺りではとても人気があって、店内はそんな人たちでいつもいっぱいなのだ。IL GELATAUROという名のその店は、その名の通りジェラート屋さんなのである。ボローニャのジェラート屋さんの多くがそうであるように、ここもまた自家製のジェラートを振舞う。初めてここに来たのは数年前の夏のこと。あれは暑い7月下旬の土曜日で、誰も外など歩いていないような昼下がりだった。この店の存在は知っていたが、何しろ地味な店構えなので私の気持ちを誘わず、仕事帰りのバスの中なら眺めるだけだったのだ。しかし一旦入ってみると、とても良い。自分の家のような空気と、昔母が作ったような菓子。そして素朴な味のジェラートがあった。あの日から私はこの店が好きになった。ただ、途中でバスを下車しなくてはいけないのだけが玉に瑕。だから好きなのにバスの窓から眺めることがやはり多いのだった。さて、車酔いをすっきりさせるために店に入ると、案の定たくさんの客がいた。間口の狭い、ウナギの寝床のような店内には、ふたつの木製のベンチと3,4個のテーブル席。テーブル席は既に埋まっていた。さあ、どれを注文しようか、とジェラートを物色していると、あった、この季節にぴったりの味。南瓜とシナモン。私は店主にこれを注文して木製のベンチに腰を下ろした。冷たいジェラートが喉を通って胃袋に落ちていくのを心地よく感じながら店の天井を眺めた。フレスコ画だ。あれはオリジナルなのだろうか。そんなことを考えながら。店を出る前にチョコレートを購入した。これは私の大好物。ボリビアのカカオを使用したこの店の特製だ。ある日若い知人からこれを贈られて、それ以来私はこれにぞっこんなのだ。

店を出ると早くも空は群青色。秋の陽はつるべ落とし。ポルティコの下を歩く、コツコツと靴の踵の音を響か
せながら。すっかり暗くなる前に家に辿り着けるように。


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