素敵な偶然

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外の雨。明け方の強い雨とは比べようもないほど静かな雨。窓ガラスに額をくっつけて目を凝らさねば見えないほど細かい雨は粒子と呼んでもよいほどで、これは雨ではなくて霧なのかもしれないと思うほどである。大窓から眺める景色。100メートル先までは視界が宜しいが、その先は白く煙ってもう見えない。その様子は初秋というよりも本格的な秋の風景で、今年もそんな季節になったのだと私の心に深く刻む。外は寒いらしい。窓を開けてみなくても道行く人々の装いを見ればすぐわかる。皆ジャケットを着こみ、ジャケットの前ボタンまでしっかり掛けている。ジャケットの中は長袖のシャツやセーターに違いない。もうそんな季節なのだ。この雨を喜んでいる人たちの顔をいくつも思い浮かべる。いつものバールの常連の80歳になる老人。トリュフやポルチーニが育つに必要な雨だったと雨を嫌う私にそういうに違いない。それから近所のマリーノ。老人ではないが若くはない。万年青年みたいな人で、彼もまたトリュフ獲得に精を出す。それも人が出動しない夜中に山へ行く。そういう彼のことを人々は命知らずと呼ぶ。夜中は猪が出現するので危険だからだ。猪につつかれたらば彼なんて一発でやられてしまうに違いない。だから皆が夜中は止めたほうが良いと窘めるが、彼は夜中の出勤が好みらしく、一向に時間帯を変更する様子はない。私と相棒はそんな彼から時々トリュフを分けてもらう。別にすごい友達でも何でもないのに。トリュフ丸ごとだったり、細かく刻んだものをバターに練りこんだものだったり。どちらも大変ありがたく、どちらも大変美味だ。だから、と言う訳ではないがマリーノには是非とも元気でいてほしい。彼が夜中の茂みの中で猪に遭遇しないことを遠くから祈るばかりである。

ところで秋になると私の食欲が目覚めだす。夏の間は草食動物みたいに野菜ばかり食べているが、少し肌寒くなるころからボローニャ食料品市場を徘徊するのが妙に楽しい。近頃はこの辺りのトルテッリーニの食べ比べが好きで、今日はあの店、次はあの店と、ふたり分を購入しては晩 に楽しむ。これが大変高価な食べ比べで、1キロ36ユーロもする。もっともふたり分だから200グラムもあれば充分すぎるくらいだから一度の出費は8ユーロにもならない。そんな食べ比べを楽しむ私を相棒は、もう少し経済観念を持たないと、とか何とかいうけれど、美味しいものを食べて満足出来たら人生は楽しくなるのではないだろうか。ささやかな楽しみなんだから、放っておいてほしいものだ。と、私は当分自己流美食的人生哲学を保ちながら、仕事帰りに食料品市場を歩き回るのである。だいたい相棒だってうまいうまいと喜んでいるではないか。私の中でナンバーワンの店は、魚屋の前のSIMONIという店。ここは店構えがひどく小さいのに何時行っても人が沢山いて自分の順番がいつまでたっても回ってこない。ま、それだけ良いものを置いているからということだ。10分も15分も待たされながら、誰もがそう我に言い聞かせている。

ああ、それにしても。ボローニャには美味しいものがいっぱい。この街に暮らすことになったのは単なる偶然だったけれど、まったく素敵な偶然だった。冬が長いとか閉塞感で息がつまりそうだとか文句を言いながらも、実は誰もがそう思っているに違いないのだ。


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コメント

yspringmindさん、こんにちは。そちらは寒くなったようですね。ところでトルテッリーニ、美味しいですよね。先日、スープに浸しすぎたのかのびてしまって駄目でした。レシピをご存知でしたら教えて下さい..

2013/10/06 (Sun) 02:54 | TSUBOI #KlfsxZCg | URL | 編集
Re: タイトルなし

TSUBOIさん、こんにちは。返事が遅くなってごめんなさい。こちら秋になりました。そちらは春でしょうか。トルテッリーニは煮過ぎぬことが大事です。それから強火でなくて弱火でコトコト煮るんです。煮過ぎると具の旨味がスープに流れ出して全く味気ないものなってしまうのですよ。

2013/10/10 (Thu) 18:06 | yspringmind #- | URL | 編集

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