夢の中で歩こう

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本当ならばトスカーナの何処かへ足を延ばすはずだった、3連休。今日は10月4日、ボローニャの聖人ペトロニオの日でボローニャ市は祝日なのだ。こういう聖人の日がどの町にも存在する。これはなかなか面白い、とボローニャに暮らし始めてそう思った。ほかの町の人にしてみればごく普通の平日なのにボローニャだけは祝日。だからどこかに足を延ばすのに最適な日、というわけだ。それが週末と続いたならば、これを利用しない手はない。グリッフェンへ行って以来、相棒は人生を楽しむことに再び積極的になったようだ。彼は何故なのか、我慢したり無理をしたりする性質で、その全く反対の哲学を持つ私と彼がどうして一緒に暮らすようになったのかと周囲の人が驚くほどだ。それは私自身も実は昔から思っていたことで、しかし、ま、いいさ、と放っておいた事柄なのだ。その彼がグリッフェンからの帰り道に10月4日の連休に何処かへ行こうと言い出したので、人間とはふとした瞬間にこうも変わるものなか、と驚いたものだ。それから様々なプランを挙げてみたが、その中からトスカーナのマレンマ地方か、シエナ周辺の丘に宿をとって彷徨うふたつのプランに辿り着いた。どちらも車でちょいと行けて、うまくすれば木曜日の夕方に出発することもできる。ところがどうやら天気が悪いらしい。それで宿泊するのはやめにして、もし雨が降らなかったら日帰り旅行でもすればよい、と話がまとまった。それで私たちはとても楽しみにしていたのに、数日前から相棒がひどい風邪を引き、それが私にうつった。私たちは祝日を目前にしてまったく残念でならなかったが、仕方あるまい、と病を治す連休になった。多分私は口で言うよりも心の奥底では深く残念だったらしい。昨晩は薬を服用して早めにベッドに潜り込んむとすぐに眠りについた。

子供のころ悲しくて泣きながら眠りについたことがあったが、昨晩の私は悔いをたっぷり含んだ溜息をつきながら眠りについた。その悔いは気を付けていたにも拘らず風邪を引いた愚かさ、それからせっかくの休みに外へ出ることができないことの悔いだった。幾度も目が覚めた。深い眠りについているはずなのに幾度も目が覚め、そのたびに窓の外を確認したが、いつまで経っても夜が明けなかった。幾つもの夢を見たが最後の夢は私が何処かの町を歩いている夢だった。それは楽しみにしていたトスカーナではなく、それからイタリアでもなかった。私が暮らしていた海のあるアメリカの町でもなければ、この夏帰省した生まれ故郷に日本の何処かでもなかった。でも何時だったか歩いたことのある町。色付いた美しい枯葉が路面を覆っていて、私はその上をかさかさと音を立てながら歩いていた。町の家という家、店という店のガラス窓は大きく、ピカピカに磨きこまれていた。大きい窓は太陽の光を少しでもたくさん取り込むためのものらしかった。大きな町で歩いても歩いても旧市街と呼ばれる地区を抜け出ることがなく、散歩好きの私には最適ともいえる場所らしかった。と、後ろから聞こえた音。チリリン。自転車のベルだった。ふと見ると私は自転車道を歩いていて、後ろからやってくる自転車は、どいてどいて! と警告しているのだった。私が歩行者道に身を移すと黒い古い自転車が横を通り抜けた。ふわふわカールの長い髪の女子学生だった。それを眺めながら自分が今いる場所が昨秋訪れたアムステルダムであると気がついた。そういえばこの道には見覚えがあった。そうだ、ここをまっすぐ行くと少し登り道になって、大きな運河にかかる大きめの橋があるのだ。それを渡って右手に行き、少し行った左手に、細い運河に面した感じの良いカフェがあった筈。私は自分の記憶を辿りながら歩いていくと、果たしてそのカフェがあった。あの日入ろうかと思いながら入らずに通り過ぎてしまったカフェ。私には用事みたいなものがあって先を急いでいたからだ。

目が覚めて顔をつめたい水で洗って朝食をとった。そういえば確か写真を撮った筈だと思い出し、カッフェラッテを飲み終えるなり写真を探した。あった。そうだ、思い出した。店の前にはチェックのシャツを着た人が座っていて、写真を撮る私を珍しげに見ていた。こんなところを写真にとってどうするんだい? みたいな感じで。思うに私はそのカフェに関心を持ちながら足を一瞬止めて眺めただけで素通りしてしまったことが心の何処かに引っかかっていたらしい。そうでもなければこんな夢を見るはずもない。ふと再びアムステルダムを訪れたくなった。昨秋二度続けてアムステルダムを訪れたことで、私の周囲は小さな疑惑を抱いている。もしかしたらアムステルダムに素敵な恋人でもいるのではないか、と。それと同時に、いやいや、彼女のことだから結婚しているうちは他所に恋人など作るはずがない、と安心もしているようだけど。だけど相棒を心配させないために、暫くアムステルダムに行くのは控えたほうがよい、とご親切なアドヴァイスを頂いたいて、それを忠実に守っているのだがそろそろよいのではないか。一年過ぎたことだし。無論、この風邪が治ってからのこと。無論、暫くは休暇など取れそうもない。クリスマスのひどく寒い時期まで。でも楽しみがひとつ増えたことには違いなく、さあ、もう一眠りしてアムステルダムを歩く夢でも見ようか、とベッドに潜るのだ。


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スプーン

訪ねたくなる街があるって気持ちが豊かになりますね。
記事を読ませて頂いて、私まで何処か訪ねた気分になりました。 
自分の棲む街とはまた違う空気が流れていて そのうえ
肌にしっくり合うというのでしょうか。 アムスとは異なりますが
もしかしてミュンヘンもお好きになるかもなんて空想しましたよ。 
  • URL
  • 2013/10/04 18:54

yspringmind

スプーンさん、こんにちは。自分と相性の良い街を見つけたときの嬉しさといったらありません。そういう街を見つけることができた幸運とか、何とか。アムステルダムは久々に見つけたそんな街です。え、ミュンヘンですか。近くて遠い街ミュンヘンにはまだ足を延ばしたことがありません。近いうちにと言いながら何年も先延ばしになっていますが、スプーンさん、そう思いますか。それでは近いうち今度こそ本当に訪れてみましょう。ボローニャからなら飛行機で一本、たったの1時間ですからね。ああ、楽しみです。
  • URL
  • 2013/10/05 18:27

basilea

10月頭に仕事がらみでパルマを経由してトスカーナにおりました。最初は良い感じの明かりに恵まれて満足していましたがあの大雨には参りました。地方一体をきれいに洗ってしまった豪雨。

ところでどうぞお大事に。真面目な気性も少し休めてあげないと本当に元気になりませんよ。人のことは言えませんが。
  • URL
  • 2013/10/11 08:12
  • Edit

yspringmind

basileaさん、こんにちは。まあ、10月の頭にトスカーナにいらっしゃいましたか。それでは雨で大変でしたね。こんなに長々と沢山する雨はあまりないのですよ。また近いうちにどうぞ。あの雨のせいですっかり寒くなりましたが、空気はきれいになって素晴らしい快晴です。
ところで真面目っていうのはいい響きですね。まあ、それも程々が宜しいみたいですけれど。
  • URL
  • 2013/10/12 23:47

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