小旅行

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小旅行を終えてボローニャに戻ると、まだ夏が残っていた。まだ9月なのだから当然といえば当然、しかし旅先の南オーストリアは早くも秋の空気が漂っていたから私と相棒の体を酷く驚かせた。まだ夏が残っていて嬉しいような、嬉しくないような。此れでよかったような、そうでないような。

私と相棒は何時の頃からか南オーストリアの小さな町グリッフェンに好んで宿を取るようになった。偶然見つけた宿だ。ブダペストへと向かう途中、何しろ出発が遅かったから当然その日のうちに目的地まで到着できる筈もなく、しかし眠らずにブダペストまで運転すると言い張る相棒を宥めながら未知の途中のホテルに立ち寄り空いている部屋がないか訊ねた。しかしその晩は地元のサッカーチームの大切なゲームが地元である日だったものだから、宿と言う宿は満室で私たちはすっかり途方に暮れてしまった。この分で行くと寝ずに運転するか、何処かに車を止めて車の中で眠るか。後者だけは避けたかったが、前者もまた宜しくなかった。何しろ初めての道で、相棒は強がっていても疲れていたからだ。車を先に先に走らせて途中の町に立ち寄ってみた。ホテルなんてない、そんな小さな町と言うか、村と言うか。メインストリートがたかだか100メートルほどしかないそんな町。しかし道の左右には飲み屋兼宿屋が数軒あって、メインストリートのちょうど真ん中あたりに位置する店に入ってみた。此処が一番活気があるような感じだったからだ。店の中には沢山の老若含めた男たちが居て、なにやら酷く興奮していた。どうやら此処も先ほどの町の一部らしく、ゲームを勝利に終えて喜ぶ男たちがビールを飲みながら大声で話をしているのだった。相棒と私は見るからに外国人で、一斉に彼らの視線を受けて酷く居心地が悪かった。部屋は空いていないだろうかと訊く相棒。しかし英語が通じなかった。と何処からか出てきた客のひとりが、あんたたち一晩泊まりたいんだろう、みたいな事を言い出して、うんうんと頷く私に鍵をくれた。すると奥からもうひとり出て来た。品のある青年だった。どうやら彼が此処の主らしく、もしくは主の息子らしかった。彼は英語が分からない。しかしドイツ語で構わず話し続けながら部屋に案内してくれた。それは素朴で清潔で、飲み屋の上とは思えないような気持ちの良い空間だった。あの日から私たちはあの辺りへ行くと必ず立ち寄るようになった。清潔なシーツとタオル、熱いシャワーと朝食付き。今度の旅行も最後まで行き先が決まらなかったが、車はグリッフェンに向かっていた。ねえ、グリッフェンに行くの? と訊ねる私に当然だろうと頷く相棒。そして宿に着くと彼が居た。10年前に初めて会ったときのような若さはないが、きびきびとした動作や表情の品のよさは昔と同じ。店に入るなり私たちのことを思い出したらしく、握手を求めてきた。イタリア人と東洋人の夫婦がこの店に来ることは珍しいらしく、記憶に残っていたらしい。最後に来たのはもう6年前のことなのに。夏の休暇シーズンを終えた今は宿の半分以上が空いているらしく、私たちは奥の角の静かで広めの部屋に通された。特に計画のない小旅行。此処に泊まりながら今日はそちらの町に、明日は向こうの村にと足をのばすのもよいだろう。私たちの無計画な小旅行はこんな風に始まった。


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