無花果の実

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涼しい風が吹きぬけたのは数日のことで、このところボローニャにまた暑さが戻ってきた。と言ってもひと頃のような暑さではない。たかだか30度とちょっと、くらいのものだ。しかしこれから秋に向かっていくのかと思うようなからりと涼しい気候に慣れ始めていたから、何だか肩すかしにあったような気分、少しばかり残念だ。それから暗くなるのが早くなった。20時を迎える頃には空が群青色に染まり、一瞬目を離した隙に闇に包まれる。暑いとは言え、やはり夏は終わろうとしている。この時刻になるたびに夏の背後に秋が順番待ちしているのを実感するのだ。街を歩くのが楽しい。このふた月のうちにじっくり時間をかけて焼いたに違いない美しい小麦色の肌の男女が眩しい。いったいどうしたらこんなに焼けるのかと声を掛けて問いてみたくなるような若い女性たち。ショートパンツから伸びる陽に焼けた長い足。全く自慢げだ。それから焼けたかたら背中。ボローニャの女性たちは実に大胆で、惜しみなくそれを披露する。男性たちにしてもしかり。小麦色の肌が映える色を選んでの外出。その様子に時にははっとさせられて、全くイタリア男たちの洒落っ気に脱帽するのだ。若い人達ばかりではない。真っ白い髪に焼けた肌が映える年配の男女。髪を小さく纏め、焼けた肌に金色のアクセサリーが映えることを知っている彼女たち。麻のスーツにボルサリーノの夏帽を被ってポルティコの下を歩く彼ら。昔見た映画どおりの彼らを眺めながら、此処はイタリアなのだと改めて思う。

ところで先日相棒の知人からいいものを頂いた。知人は両親親戚が暮らすシチリアの海の町に妻子供を引きつれて数週間帰省していたのだ。帰省中に貰った電話によると家族親戚がもてなしてくれるのはありがたいが、兎に角毎日お祭り騒ぎのご馳走続きで大変だ、とのことだった。お腹が一杯でもう食べられないと思いながらも断われずに此れでもかと食べている彼らの姿を思い浮かべ、私たちはおなかを抱えて笑った。さて、その知人の父親が庭の無花果の木から実をもいで作った干し無花果を頂いたのだ。いつか誰かから聞いたことがある。シチリアではよい天気の季節になると果物や野菜を干して保存食を作ると。例えばトマト、例えばあんず。他にも沢山の種類があるそうで、太陽の光の下に並べられたそれらの様子は、なかなか素敵なのだそうだ。へえ、いつか見てみたい。と思っていたのだが、それを見る前にお味のほうを体験することになった。よく熟した無花果を縦に切って左右に開き、ふたつ準備するのだそうだ。内側同士を合わせたら、後は太陽の下に並べるだけ。内側同士を合わせるのは、中身が乾き過ぎないようにする為らしい。いったい何日干したのだろう。いったいどのくらいのシチリアの太陽の光を吸収したのだろう。二枚重ねになった無花果を丁寧にはがす。乾きすぎず、柔らかく、いい匂いがした。口に放り込むと、あっ、美味しい。お店で売っているものなど比べ物にならない。私たちが喜ぶと、知人は大きく頷きながら言うのだ。そうだろう。うちの親父は頑固者で、昔ながらのやり方を絶対変えないのさ。まあ、頑固者なのは親父だけじゃなくて、あの辺りの男はみんな頑固者なんだけど。そういいながら、無花果をこんなに気に入って貰えてよかった、と付け加えた。ねえ、来夏も帰省するの? と訊ねる私に知人はとんでもないと顔の前で手を振った。いやあ、暫くはいいや。そう言いながらも、ふと嬉しそうな目をした。楽しかった家族との夏。大騒ぎだった毎日。暫くはいいやと言いながらも、案外心の中では来年も帰ってみようかと考えているのかもしれない。親が元気なうちに孝行しなくてはね。誰もそれを口にしないが誰もが思っている、暗黙の了解。彼にしても。私にしても。

そういえば私にはもう少し夏休みが残っていて、明日から9日間自由の身。何処か美しい湖に行こうとか、いつもは足を向けない北の山を目指そうとか。そんなことを考えながら来週早々家を出る。出発日以外は予定がない旅。そんなのが実に私らしい。


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コメント

いつもながら季節を感じる素敵なお写真、ありがとうございます。シンとした影の色やシルエットになった自転車に、胸がキュッとなります。そういえば私もお盆に帰省した際、母が採ってきた野菜の中に無花果がありました。5日もいたのに、あまりの暑さに野菜をミキサーにかけてガスパチョふうにしたり、主食も冷製パスタばかりで、ついに無花果は頂きませんでした。干し無花果、美味しそう。母に教えます。

2013/09/07 (Sat) 01:59 | YUKI #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

YUKIさん、こんにちは。9月だというのに暑くて参りましたね。こういうときは暑さばてになるものです。栄養があって美味しいものがあると嬉しいですね。無花果は、私の好物なのです。だから私だったらば、お母様が採ってこられたどの野菜も差し置いて、無花果に手を出したに違いありません。生も美味しいけれど、太陽の下に干された無花果は、甘みを増してとんでもなく美味しいです。是非試してみてください。

2013/09/08 (Sun) 00:23 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。この週末、実家に帰ったので、さっそく干し無花果を作りました。その日にとれた無花果や、食べないで冷蔵庫にしまってあったものなど合わせて15個ほど。二つに割って竹かごに並べた無花果の可愛らしいこと!初日は好天でしたが翌日から接近する台風の影響で雨が降り出したので、仕方なく低温のオーブンで火を入れました。焼いている最中、無花果からシナモンのような何とも言えない甘い匂いが漂い、母と「自然の力はすごい!」と感心しきり。できあがった半生の干し無花果は、ねっとりとした甘み。自分から出た蜜でツヤツヤ。親戚のハタチの女の子が来たので食べさせたところ「何これ。んん!高級な味がする!」。若い子の「高級な味」はあまりに素直な感想で笑ってしまいました。素敵なレシピ、ありがとうございます。

2013/09/17 (Tue) 05:20 | YUKI #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

YUKIさん、こんにちは。干し無花果作りましたか。行動的でいいですね。感心です。二日目には雨降りで、しかし低温のオーブンで乾燥させるなんて考えましたね。これまた感心。乾燥した無花果のあの自然の甘みは本当に驚きですね。親戚の女の子が高級な味がすると表現したそうですが、高級な味とは、多分、手間暇がかかっているとか自然の恵みとか、そういうものが高級な、言い換えればなかなか手に入らない味、なのでしょうね。私もオーブンを使って果物乾燥させてみようかな。素敵なアイデア有難うございました。

2013/09/17 (Tue) 23:03 | yspringmind #- | URL | 編集

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