ボローニャの夏

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今日も快晴。長いこと雨降りと低温だったボローニャだから、こんな快晴は嬉しくない筈がない。待ちに待った素敵な季節。開放的な季節なのだから。ただ、少々急激過ぎた。こんなに急に暑くなるなんて。幸運だったのは昨晩ついに探していた夏服がしまってあった箱が見つかったことだ。もう長袖なんて着ていられない。何しろとっくに30度を超えているのだから。ボローニャの夏は暑い。周囲を山に囲まれたボローニャ。風の行き所がなくて夏は蒸し暑くて仕方がない。丘の町ピアノーロに暮らした5年間は夏は快適だったけど、其の分冬は辛かった。そうして戻ってきたボローニャの町での暮らし。冬の寒さがそれほどでなかった分だけ、夏の暑さは覚悟しなくてはならない。そういうものだ。全てを手に入れようなんて、調子の良いことは考えてはいけない。少なくとも此処ボローニャでは。良いこともあればそうでないこともあるさ、と初めから思っていればよいだけのことだ。

恒例の日曜日の昼食会を終えてピアノーロから帰ってくるとバスの停留所の背後にある床屋の入り口の階段に腰を下ろしている男性がいた。昼過ぎの、真上から照りつける太陽を逃れるように、僅かな日陰にへばりつくかのような形で座っていた。白い長袖シャツに黒いズボン。黒い革靴に、黒いサングラス。白髪の混じらないウェーブの掛かった黒髪。私が其の前を通り過ぎようとした時、男性が口を開いた。やあ、元気かい。私はその見知らぬ男性が自分に声を掛けたことに驚き、恐らく酷く動揺した表情をしたに違いなかった。男性は数秒私の返事を待ったが何の返答もないので、サングラスをかけていたら誰だかわからないかな、と言ってサングラスを外して笑った。近所のレストランの給仕人だった。あら、全然分からなかった。私は非礼を詫びて、其の間に確か彼は休暇で暫く見かけなかったことを思い出して、休暇はどうだったかと訊ねてみたら、生き返った気分だと言って深呼吸をして見せた。私と相棒は今のアパートメントに昨冬引っ越してきて以来、彼が働くレストランへ頻繁に足を運ぶようになったのにはわけがある。ボローニャに戻ってきたし、私たちはいつも真面目に働いているのだし、短い人生だ、もう少し楽しもうじゃないか。其の楽しみのひとつが時々レストランで食事をすることだった。勿論当時は月に二度ほどのつもりだったが、このレストランへ行くようになるとまるで自分の家のような気分で食事が出来るので、毎週足を運ぶようになった。メニューにないけど、こんなの出来る? と訊けば一瞬考えて、ふーん悪くないね、と希望の料理を出してくれる。時には店主のほうから、今日は実はこんな魚があってね、こんな料理を出すことが出来るけど、どうだい? と提案がある。頻繁に通っているうちに店に置かれている全ての菓子類を作っているという店主の姑とも顔見知りになり、其のうち店主の美しい金髪のお嫁さんと小さな子供たちとも知り合い、そして給仕人たちとも親しく言葉を交わすようになった。其の中でも彼は実に気の利いた話をするのでどの客からも好まれて、私たちもまた彼と話をするのが楽しみだった。その彼の喋り言葉にはどの町のアクセントもなく、しかし相棒は何を根拠にしてかトスカーナ人だと推測し、私はウェーブのある黒髪からプーリア人だと推測した。そうしてある晩訊ねてみたら、プーリア人だと分かり、いやあ、推測に関しては女性のほうが秀でていると言うけれど本当だったね、と言って彼が相棒にうウィンクを投げた。其の様子はどうも、言い当てた私を褒めると同時に、おいおい、君の奥さんは鋭いな、君も大変だなあ、と言っているようで、私たち3人は互いの顔を見合わせると、あっはっはっとお腹を抱えて笑ったものだった。さて、彼はどうやらプーリアへ帰っていたらしい。そしてボローニャに戻ってくるなり日曜日の昼に仕事、しかもこんな暑さで体がびっくりしているとのことだった。でも、プーリアのほうが暑いでしょう、と言う私に彼は首を横に振る。暑いけど、こんな暑さじゃない。ボローニャの暑さは一種独特なんだよ。ふーん、成程ねえ、一種独特。そうしているうちにバスがやって来て、またねと手を振って彼はバスに飛び乗った。炎天下にひとり残り、空を見上げる。暫く雨は降らないだろう。そして気温は上がる一方。一種独特のボローニャの暑さと上手く付き合っていく方法を見つけなければと思いながら、思い出したかのように私は再び歩き出した。


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コメント

yspringmindさん、こんにちは

快晴ですか~

よろしいですね^^

こちらは、ボローニャと真逆で

梅雨なのに、全く雨が降りません^^;

雨のジトジトも苦手ではあるのですが

こう空梅雨で、猛暑だと・・・ヘトヘトでございます><


そろそろ、雨しっとりの御庭もカメラにおさめたいとこです^^


プーリアのエピソード

興味深いですね^^

わたし、新婚旅行で一度だけ

プーリア州に、足を踏み入れました

ちょっと、思い出しました・・・

2013/06/17 (Mon) 14:52 | 高兄 #eP1cGWnA | URL | 編集

夏、突然やって来ましたね。
あんまりにも突然すぎて、体がびっくりしているのが判ります。

カラブリアの夏も、気温こそボローニャより高くなることはあるもののボローニャのような「辛さ」を感じる暑さではないんですよ。
ボローニャの夏は空気が淀んで・・熱風の中で呼吸しているよう。そのくせちょっと郊外の丘の上に行くと暑いながらも過ごしやすいので、この時期になると山荘が欲しい病が発生します(笑 

やっと夏らしい夏がやってきて、同僚達とはずーっとバカンスの計画ばかり話しているような気がします(苦笑 どんな計画・予定にしろ、皆の話を聞いているとこちらも色々想像しちゃって・・ワクワクしたり、脳内妄想が広がったりで、ぜーんぜん仕事になりません(苦笑

私たちは7月の中旬を待たずにカラブリアに戻ります。yspringmindさんのバカンスのご予定は?

2013/06/17 (Mon) 15:11 | erieri #mQop/nM. | URL | 編集
Re: タイトルなし

高兄さん、こんにちは。快晴で嬉しい。しかしなんて暑いんでしょう。思うにボローニャと京都の夏は似通ったものがあるような気がします。どうでしょうか。それにしても梅雨なのに雨が降らないとは。雨は苦手、でも梅雨に雨が降らないと、それはまた困ります。作物、大丈夫でしょうか。こちらボローニャは今まで雨が降りすぎて、作物が台無しになりました。果物も野菜も、高くてびっくりの6月です。
高兄さんてば、新婚旅行でプーリアへ行きましたか。いいですね。実は私はまだ訪れたことがありません。いつか小旅行してみたいんですよ。

2013/06/18 (Tue) 19:14 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

erieri さん、こんにちは。この突然の夏の到来に目を白黒させています。夕食の準備がしんどいので今夜はレストランへ行くことに決めました。
南イタリアは南の分だけ日差しが強くて暑いけれど、からりとしていていいですね。ボローニャの暑さは湿度を充分含んでいて、バスを待っているだけで大汗ですから。山のほうはきっと涼しい風が吹いているのでしょうね。うん、ピアノーロだって標高たったの220mだったけど充分涼しかったのですから。夏用の山荘。良い響きです。
7月中旬を待たずにカラブリアへ戻りますか。え、ということは後ひと月もしないうちに夏休み??? 羨ましいー。私はまだ後2ヶ月待ちます。この夏は日本ですよ!

2013/06/18 (Tue) 19:22 | yspringmind #- | URL | 編集

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