安堵

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つい昨日まで暖かい陽射しと呼んでいたのに、今日から射るような強い陽射しと呼ぶようになった。いつもながら中間と言うものがない。ボローニャの生活は何時だってこんな風に極端だ。春らしい春がなく、秋らしい秋がない。それにはもう慣れているはずなのに、今年のそれには閉口だ。外国人の私ばかりではない。ボローニャ人だって呆れかえっているのだから、四季を楽しむ国からやって来た外国人の私が閉口するのも当然だった。忙しい一週間だった。気が付いたら土曜日。本当ならば今週中に引越しだったが、引越し先の住人が引越ししなかったので、先延ばしになった。そういうこともある。それに引越し先と言っても、まだ中の様子を見てもいない。だから本当にそこが引越し先になるかもわからない。何でもありの時代だ。特に此処では予定通りに行かないことはごく当たり前。怒ることもなければ、がっかりすることもない。ふーん、そうなの。淡々と反応する私に、相棒が時々憤慨する。君は腹が立たないのかとか、何でそんなに平静でいられるのかとか。冷めていると言われればそうだけど、ひとつひとつに立腹していたら血圧が上がって仕方が無い。ふーん、そうなの。そんな言葉を発したら、気持ちの波も立たないと言うものだ。昔、アメリカで一緒に暮らしていた私たちの大切な猫ちゃんは、いつもどーんと構えていて平然な顔をしていた。ああでもない、こうでもないと大騒ぎする私と相棒を、はすに構えて眺めていた。まるで嗜めるような表情で。あんたたち、よくも毎日大騒ぎするわね。疲れるんじゃないの? そう言っているかのようだった。丁度今の私がそうである。猫のようにはすに構えて、そんなに大騒ぎすることでもないでしょう?と。

昨日からの疲れが全く癒されていなかったが、あまりにも天気が良いので旧市街へ行った。ちょっと散歩でもしてみようと思って。薄手の長袖シャツが暑く感じるほどだった。路面に落ちる木陰が、黒く涼しそうに見えた。影の濃さが、もう初夏であることを物語っていた。月に一度の骨董品市に集まる人々の波を上手に掻き分けながら歩いていたら、こんにちは、奥さん、お元気ですか、と声を掛けられた。見ると見慣れた女性がいて、直ぐに思い出した。先月私が絵を買った店の女性だった。こんにちは。元気ですけど歯が2本無くなりました。そう返事をすると女性は左右に大きく口を開いて、楽しそうに笑った。あら、2本もですか、と。うんうんと頷きながら私は彼女に手を振ってまた人の波に呑みこまれていった。昼も人気のあるフランス屋。昼からフランスワインをテラス席で楽しむ人が多いことを内心喜びながら、其の前を通り過ぎた。それから魚屋。アペリフィッシュと言う名で売り出している、魚屋の中で魚の小料理とワインを楽しむそれはボローニャではなかなかの人気で、最近は人がいつも店からはみ出している。魚屋の中でワイングラスを傾ける人々。其の様子はとても愉しげだ。そうして幾つかの気に入りの店の前を通り過ぎて着いた先は少し前に通り過ぎた小さな店。半年振りに店の敷居をまたいだ。此の一年の間にいったい何軒の店が閉まっただろうか。其の中の数軒は私の気に入りだったから、其のたびに残念に思ったものだ。特に衣服を売る店。ごく当たり前のように消えていった。半年振りに訪れた此の店が消えていかないのは、それなりに商売が成り立っているからなのだろう。こんな一等地に、細々とでも商売が成り立つのだから大したものだと思いながら、女店主に挨拶をする。涼しげな木綿のシャツ、プリントの美しいドレスを物色しているうちに、一枚のブラウスに目が留まった。薄い白地の木綿に深緑色のプリントのある袖なしブラウスで、いかにも涼しげだった。私がそれに釘付けになっていると、女店主が手にとって言った。此れ、私の一番の気に入りなんです。そうして彼女はブラウスを広げると深緑色のプリントは色白で赤みがかった彼女の長い髪に良く映えて、それはそれは美しかった。あら素敵。あなたにとてもよく似合う。そう言って私が喜ぶと、あなたは褒め上手ね、と言って彼女は嬉しそうに微笑んだ。そして、どちらが売主だかわからなくなってきた、と言ってもう一度笑った。私は趣味の良い彼女と一緒に選びだしたシンプルで涼しげなシャツを2枚購入して店を出た。新しいシャツ。新しい季節にそんな買い物をするのは悪くない。

夕方になって雨が少し降った。丘のほうでは大そう降ったらしく、そちらの方から吹く風がとても冷たい。ほてった肌にひんやりと気持ちよく、良い土曜日だったと安堵の溜息をつく。今夜は上等なワインの栓でも抜くとしよう。一週間頑張ったご褒美に。


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コメント

本日、他の人の誤操作で、メールの送り先のアドレス一覧がすべて削除されてしまいました。
仕事上の書類を配信しなければならなかったのですが、その前にすべて無くなっていました。
腹立たしさとともにアタフタしていましたが、yspringmindさんの「ふ〜ん、そうなの」で、気持ちが落ち着きました。
まあ発送が二〜三日遅れても、相手からの返信が二〜三日遅れるだけですから。
その間に別のことをすれば良いのです。
「ふ〜ん、そうなの」は座右の銘になりますね!

2013/06/09 (Sun) 13:24 | Via Valdossola #P6wRKz4w | URL | 編集
Re: タイトルなし

Via Valdossolaさん、こんにちは。パソコンの誤操作・・・辛いですねえ。私はもっと大変なご操作で一切のデータが消えてしまって大変だった経験がありまして・・・辛いですねえ、こういうのは。あの時は、ふーん、そうなの、では済まされませんでしたが、Via Valdossolaさんの場合は、ふーん、そうなの、で気持ちが落ち着いたとのことですから、発送が2・3日遅れるだけで済むようですから安心しました。
そう、そうなんです。気持ちの持ち方ひとつで、大抵のことは上手く収めることが出来るんですよ。怒らないが勝ち。どーんと構えていると気持ちにも余裕が出てくる。私、此の年齢になってようやくそういうことが解るようになりました。

2013/06/09 (Sun) 23:22 | yspringmind #- | URL | 編集

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