嬉しい週末

DSC_0024 (640x428)


私は嬉しい。抜歯の患部がまだ痛むが、糸を抜いて気分が良い。歯医者によれば治癒にひと月ほど掛かるそうだが、其のうち抜歯したことすら忘れるに違いない。そういうものだ。それでよい。

もうひとつ嬉しいのは、2週間ぶりのボローニャ散策。雨の予報だったのに朝起きてみたら空が明るかった。時折吹く風は冷たいけれど行き交う人の姿は軽装だ。ボローニャ旧市街はまるでそんな日を待っていたかのように、明るい表情の人で賑わっていた。ぐるりと歩き回ってから街の中心の食料品市場界隈へ行った。土曜日とあって人が多い。市場をそぞろ歩く旅行者たち。週末の食料を買い込む市民たち。そんな人の波を縫っていつもの店に向かった。いつもの店は野菜と果物の店。家族経営の気持ちの良い店。この店は人気がある。いつも待たなければならないが、考えようによってはとてもよい。どんどん売れていくからいつも新鮮なものが並んでいる。案の定、店には数人の先客が居て10分も待たねばならなかった。他の店なら待たずに買い物できるけど、浮気は禁物だ。何しろ先日浮気して隣の店でブロッコリを購入したら、家に帰ってがっかりした。こんなブロッコリって有りだろうか、と。だから待たされても浮気はせずにいつもの店で買うのである。それからもうひとつ理由がある。イタリアは馴染み客に対応が良い。私は頻繁に行く常連ではないけれど、彼らにとっては数少ない東洋人のリピート客らしく、行くと元気に挨拶してくれる。それから例えばシチリア産のオレンジを購入するときなど、よく熟れて甘いのを選んでね、といえば吟味しながら紙袋に入れてくれるのである。此処に来る客も良い。先客を出し抜くことなく、例えば次はどなたの番?と店の人が大きな声で聞くと、あちらのご婦人ですよ、と言った具合だ。だから時々順番を間違えて私に番が先に回ってくるときは、いいえ、向こうのご婦人が先ですよ、といった具合にするのが良い。さて、ようやく自分の番になった。私は自分の前に並ぶ出始めたばかりの杏を指差して、もう甘くて美味しいのかと質問すると、勿論だ、ほら、こんなに甘い匂い、と私の鼻先に杏を寄せてくれた。恐らくチェゼナ辺りの杏に違いなかった。あの辺りは同じエミリア・ロマーニャなのにボローニャよりも海に近くて断然気候が良いから、果物栽培が盛んなのである。そしてあの辺りで収穫された果物ときたら、太陽の恵みを一身に受けたらしく自然の甘みで満ちている。私は熟れて食べ頃なのを注文した。それから向こうにあるアスパラガス。太くて塩湯でしたら柔らかくて美味しいに違いない美しい緑の奴ではなくて、薇みたいに細くて頼りないのを敢えて選んだ。見かけはいまひとつだが、実はとても美味しい。これを軽く塩茹でして大蒜やパンチェッタと炒めると美味しい。更にそれをパスタに絡めると、これは私の気に入りのプリモピアット(第一皿)となるのだ。店の人があれこれ話しかけてくれるが、随分の客が待っているので、さっさと勘定を済ませると簡単に挨拶して店を離れた。良い週末を。と背中のほうから聞こえてきた。店の奥さんの声だった。だから私も歩を止めて振り向むくと大きな声で言った。あなたにも良い週末となりますように。店の奥さんが嬉しそうに笑っていた。気持ちの良い店。私がこの店をそう呼ぶのは、こんな理由でもある。

夕方になると雲が空を覆った。最近いつもそんな風だ。午後になると雨が降る。もう6月なのに少しも初夏らしくならぬボローニャ。シチリア辺りは暖かくて海水浴をしていると言うのに。最後にもうひとつ嬉しいのは、暗礁に乗り上げていた夏の帰省が決まったからだ。航空券も予約して、あとは夏の休暇を待つだけ。こんなに嬉しいなんて。こんなに嬉しいなんて。そんなに日本が、家族が恋しかったのかと驚く。何年日本の外に居ても、私はずっと日本人。祖国へ帰るのは嬉しいのだと、今日そんなことを発見した。嬉しいことが沢山の週末。私は幸せ者である。


人気ブログランキングへ

コメント

うわ~、一時帰国をされるんですね。
それは楽しみなはずです(笑)

たくさんの体験をされてきてください。

抜糸後の治癒に一ヶ月もかかるとは、随分長期ですね。
帰国前にすっかり治って、日本で美味しいものを存分に味わえるようになってください。

2013/06/02 (Sun) 02:17 | るみこ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

るみこさん、こんにちは。二年前に帰ったときに、これからは二年に一度は帰国しようと決めたのです。母が元気なうちに、母が歩けるうちに一緒に散歩を楽しめるようにと。今からとても楽しみです。
早く抜歯の後を治癒して、美味しい日本の食事を楽しみたい、と完治に向けて励むのですが、暫く歯医者にはいけません。何故なら抜糸をしたときに顎が外れて15分も元に戻らず大騒ぎしたので、歯医者にまずはあごの間接を直してきて欲しいといわれたからなのです。と言うことで、抜いた後は暫くそのまま放っておいて、あごの間接の治療です。ちょっと情けないですねえ。

2013/06/05 (Wed) 22:11 | yspringmind #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する