曇り空

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連休ではないにしろ、祝日の多いこの時期のイタリア。今日は5月1日、労働者の日でイタリアは祝日。こんな日に働いているのは実に不運と思うけど、近所のバールは祝日は絶対店を閉めない主義なので、今日だっていつものようにフル回転だ。しかも店の持ち主はどこぞへ出かけてこのところずっと不在。だから労働者の祝日に店で働いているのは、本来ならばこの日を満喫するべき人達ばかり。世の中、上手くいかないことが沢山あるが、こんなことってあっていいの?と自分のことでもないのに不満を述べる私に店の女性が笑いながら言う。私がこの店で働き始めたのは12年前の今日だった。其れを聞いた私は、そんな日に働き始めたのが間違えだったのではないかと問う。しかし彼女は満更悪くなかったと言うように笑い、しかし家の近所で時間の融通が利く、暇なことがないこの店で働けたのは大した幸運だったといった。確かに。物は考えようと言うものだ。と私が思い始めたところで、しかし今日みたいな祝日は休みたかったわねえ、と言って店に居る客たちを笑わせた。何処のバールも閉まっている今日、このバールは夜中の閉店時間まで大忙しに違いない。頑張ってね、と言って私は店を出た。晴天で気温が上がる、と聞いていたので朝から大洗濯をしたが予報は外れる様子である。雨こそ降らぬが空には湿っぽい雲が敷き詰められていて、何時雨が降りだしてもおかしくない。蒸し蒸ししたこの感じは丁度日本の梅雨時に似ている。雨が降る前の匂いを察知しながら故郷を恋しく思った。と言っても梅雨時は苦手。梅雨時に日本に帰りたいと思ったことは一度もない。こんな曇り空だが、うっかりすると陽に焼ける。と、思い出した。

21年前の今頃、女友達と海に行ったことだ。私はアメリカの海のある町に住んでいた。ある土曜日の朝、電話が鳴った。ねえ、海に行かない? 特にすることも約束もない一日だったから、私はそんな女友達の誘いに乗って家を出た。私たちは確かトロリーバスに乗った筈だ。乗り換えることもなく私たちは終点で下車すると、其の足で海岸へと歩いていった。其れは岩場に囲まれた秘密の場所だった。他には誰も居なくて、ずっと先の海でサーフィンを楽しむ人が幾人か居るだけだった。浜に大きな布をひいてごろりと寝転がった。半袖のシャツにショートパンツ。素足が気持ちよかった。見上げる空には太陽の姿はなく、しかし厚い雲の向こう側に確かに太陽が存在することが確認できる、そんな空だった。3時間も私たちはごろごろしながらお喋りをして、空腹に背中を押されて浜を去った。街の中心に暮らしていた私たちは再び乗り物に乗り込み、しかし途中で下車したのは女友達が指差しながらあの店にいつか行ってみたいと言ったからだ。あの店なら知っている。先日、インドネシア人の女の子が連れて行ってくれたから。とても美味しかった、と言うと、降りよう!と言って彼女が私の手を引いて下車したのだ。通り過ぎた道のりを戻り、店のドアを開けると忙しい時間が終わったらしく、のんびりとした雰囲気が漂っていた。インドネシア料理の店で、小さいながら名の知れた店だった。先日来たときに良くしてくれた店員が私の顔を覚えていて、随分サーヴィスしてくれた。辛くて涙なしでは食べられぬものもあったけど、私たちは笑いながら2時間もかけて昼食を楽しんだ。勘定は驚くほど小さく、私が知っているインドネシア人の女の子の顔が随分利いていることが伺えた。いつも安いシャツにショートパンツ姿の単なる若い東洋人の彼女だが、本国に帰るととんでもなく高貴な存在であることを私は其れから随分経って人伝に聞いた。ああ、美味しかった、と言って外に出ると海からの風が冷たく、私たちは丁度来たトロリーバスに乗り込んだ。其の晩、よく眠れなかった。肌がひりひり焼けるように痛かったからだ。翌朝見ると腕と足、其れから首周りが酷く陽に焼けていた。それだけではない、顔もしっかり焼けていて、鏡を見て、きゃーっと悲鳴を上げた。と、電話の音。昨日の彼女からだった。陽に焼けてひりひりする。大変なことになった。そう言って騒ぐ彼女を私は笑いながら、実はそういう自分も大変なのだと言い、ふたりで大笑いした。曇り空だからと言って油断したことを後悔し、でも楽しかったねと言って電話を切った。

あの日以来、曇りの日こそ用心しなくてはと思うようになったのだ。そう、丁度こんな曇り空が一番危ない。でも此処には海もなければ冷たい空気もない。立ち込める湿度と行き交う車ばかり。ああ、私はボローニャに住んでいるのだと、あの海の一日がどうしようもなく恋しかった。


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コメント

こんにちは。
すっかりご無沙汰してしまいました。
私も、この連休中働き詰めになります。
法律で決められたお休みの日々なのに、どうして働かなければならないのか、未だに解りません。
まあ、働ける場所があるだけ、幸せなのかもしれません。
なんて考えてしまうこと自体が、少し悲しいですね。
また、仕事の合間にお邪魔します。

2013/05/02 (Thu) 12:08 | Via Valdossola #P6wRKz4w | URL | 編集
Re: タイトルなし

Via Valdossolaさん、こんにちは。連休なのにお仕事ですか。其れは腑に落ちない話ですね。しかしこの時代、仕事が忙しくて・・・とは案外幸せのひとつなのかもしれません。バールの彼女もそう言っていました。
私は仕事は程ほどに。自分のしたいことを柱に生活するのがモットーではありますが、イタリアに来て数年仕事探しに明け暮れた経験があるので、程ほどとは言えど大切にしなくてはと思うのです。元気な限り働きますよー。そして其れと同じくらい人生を楽しもうと思うのです。そろそろ連休も終わりですね。ボローニャは不安定な天気ですが、其れを通過すると急に初夏になりそうな気配なのです。

2013/05/03 (Fri) 20:38 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。
仕事の合間にお邪魔しています。
今、職場では、日本の労働契約法の改正に伴う非正規雇用者の扱いで、混乱しています。正規雇用者と非正規雇用者との間に中間的な雇用形態を創設するようですが、下手をすると雇用者側と非正規雇用者及び正規雇用者の三者三様に無理が発生しそうです。

とにかく、五月四日は私の誕生日なのですが、休日出勤という大きなプレゼントを貰って、嬉しいような、悲しいような、辛いような…
yspringmindさんのように、私も気持ちを入れ替えて働きますね。

2013/05/04 (Sat) 02:19 | Via Valdossola #P6wRKz4w | URL | 編集
Re: タイトルなし

Via Valdossolaさん、遅くなりましたがお誕生日おめでとうございます。
しかし誕生日が休日に当たっても働く・・・嬉しいような悲しいような気持ち、同感しましたよ。
日本の労働契約法の改正に伴って正規雇用者と非正規雇用者との間に中間的な雇用形態を創設するお話ですが、なかなか難しいことをしてくれますね。そんな法律が生み出される世の中になったことを驚いているのは私だけなのでしょうか。思えば昔の日本はシンプルでよかったんですね。

2013/05/05 (Sun) 14:47 | yspringmind #- | URL | 編集
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2013/05/06 (Mon) 11:17 | # | | 編集

竜巻があったと・・・そちらは大丈夫でしたか?

2013/05/07 (Tue) 07:46 | 春風 #jgTtIlIo | URL | 編集
Re: タイトルなし

鍵コメさん、こんにちは。就職おめでとうございます。今回のボローニャ滞在は短いようですから、次回ゆっくりくるときにでも声を掛けてくださいね。私もばたばたしています。もう5月だなんて信じられませんよね。楽しいボローニャ滞在をお過ごしください。

2013/05/07 (Tue) 22:48 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

春風さん、こんにちは。日本では大々的に報道されているらしい竜巻ですが、ボローニャに住んでいる人でそれを知っている人は少ないようです。私も・・・月曜日に職場の人から聞くまで全然知らなかったんですよ。聞いて驚きました。

2013/05/07 (Tue) 22:51 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは
今日は仕事が早く終わり・・・パソコンにむかっております  うふふっ
竜巻・・・知らなかったのですね
ご無事でよかったです

2013/05/09 (Thu) 07:33 | 春風 #jgTtIlIo | URL | 編集
Re: タイトルなし

春風さん、こんにちは。
今日は仕事が早く終わってパソコンに向かっている・・・と言うことは、いつもはお仕事の帰りが遅いのですか。たまにはゆっくりしてくださいね。必要ですよー。
竜巻を知らなかっただけではなく、私は以前あった大きな地震にも気が付かなかったと言うことで、少々自分に疑問を感じ始めました。

2013/05/09 (Thu) 22:59 | yspringmind #- | URL | 編集

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