討論好き

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快晴に恵まれて朝から気分上々。暫く続いていた体調不良も沢山睡眠をとって気分爽快だ。遅い朝食を済ませるなり、家を脱出した。
旧市街の店の大半が春物に変わり、ウィンドウショッピングを楽しむ人達の目を潤わす。ガッレリアの中で春の美しいモカシンシューズを見つけて心をときめかす。その美しいシルエットや色もそうだけど、この靴を素足で履ける季節がやってくるのかと思うと胸がどきどきするのだった。多分その頃には新緑に街中が萌え、強い日差しを遮るためにサングラスをかけて、颯爽と歩く人々で街が賑わうことだろう。長くなった髪を切った。少しだけと言ったのに10cm近く切り落とされ、首元が妙に涼しい。思いがけずの短い髪にびっくりしたが、まあ良い、こんなこともたまにはある。髪はそのうち伸びるだろうし、案外こんな短いのが自分らしいかもしれない。またね、よい週末を、と店の人達と挨拶を交わして外に出た。Piazza Maggioreには幾つもの人の輪があった。皆真剣に耳を傾けている。どうやら輪の中心には誰かがイタリアの政治について論じているようだった。近頃人が集まると直ぐに討論が始まる。もともと討論好きの国民だ。討論するために相手の意見に反論するほどの討論好きだ。しかし最近の討論は何時に無く熱が込められている。来週に迫った投票について、国中が沸騰しているのだ。テレビをつけても新聞を開いても、バールへ行っても、何処へ行ってもこのことばかり。投票権のない私は余計な口は挟まず聞く側に徹しているが、私だって願っているのだ。誰が勝利を得てもよいが、まずは税金を何とかして欲しい、と。
ふとアメリカに居た頃のことを思い出した。私と相棒はしばしば家から遠くのカフェへ行った。イタリアの美味しいカップチーノを求めて。そして其処へいけば大抵居るに違いない私たちの知り合いとの楽しいお喋りを求めて。そこで時々イタリア人女性に会った。彼女はローマの北にある町の出身で、すらりと美しい姿の女性だった。アンナという名でこの辺りでは結構有名だった。有名だった理由はそのすらりと美しい姿と、もうひとつは政治の話になると口を挟むことが出来ないほどひとりで話し続けることだった。ひとしきり話すと、ねえ、そうでしょう? とアンナは周囲に同意を求めるのだ。その頃には誰もが辟易していて彼女とこの場所で会ってしまったことを後悔するのだった。彼女の仲のよい女友達ですら。だから彼女が居るときは決して政治の話をしてはいけない、というのが私たちの暗黙の了解なのだ。しかしそれも新聞に気になる政治の行方が書かれていると、アンナはそれを目聡くキャッチして知人友人に彼女式政治哲学を披露するのだった。直ぐ一目惚れしてしまうアンナ。華やかで人目を惹き、いつも賑やかだったアンナ。今頃どうしているのだろう。
暫く散策を楽しんでからジェラート屋さんへ行くと、先客が居た。男性にしては長い髪。年の頃は60歳くらいで、長身に仕立てのよいコートが良く似合う。初めて見る人ではない。幾度もこの店で見かけている。先客はチョコレートを5つ袋に入れて貰って勘定を済ませると外に出て行った。ねえねえ、あのお客さんはどういう人なの? 彼はいつもチョコレートを5つ買うでしょう? と訊ねる私に店の女性が目を大きく見開く。まあ、あなた、よく知っているわねえ、と言うように。店の女性は周囲を見回してほかに客がいないことを確認すると、神妙な顔をして言った。そうなの、あの男性は毎日チョコレートを5つ買いに来るのよ! と。私たちは無言で深く頷いて話を終えた。客が入ってきたからだった。政治もいいけど私にはやはりこんな軽い話のほうが合うようだ。私は大きく盛り付けてくれたジェラートを堪能しながらそんなことを考えて、自分の暢気な性格に内心笑いが止まらないのだった。


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コメント

体調が良くなられたそうで何よりです。
よかった~!


毎日チョコを5個買われる紳士。
物語が書けそうですね ^・^

2013/02/17 (Sun) 18:39 | るみこ #- | URL | 編集

美しいモカシン、萌え出る緑!想像しただけでワクワクします。
軽やかなショートヘアも、まるで新しい季節を迎え入れる準備のようで。


チョコ5つの紳士のお話し、
「不審に思った店主が、その女のあとを付いて行くと、そこは墓場で、女の墓の横には赤ん坊が泣いていた…」
子供の頃に読んだ「飴を買う幽霊」を思い出しました。
ミステリアスな気分にさせてくれる人って、素敵ですね。

「素敵なんだけど地雷を投げてはいけない人」、確かに、過去にたくさんいました。
その人にその話を振ってはイケナイ、みたいな。
でも最近みないのは、自分が大人になって、かわし方を覚えたからでしょうか。そんな事を考えながらyspringmindさんの文章を読み、また昔を思い出してみました。


2013/02/17 (Sun) 19:54 | YUKI #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

るみこさん、こんにちは。体調がよくなり再び散策、そして寄り道を楽しんでいます。でも、寒いから気をつけなくてはいけませんね。
まさか此の男性が毎日買いに来ているなんて、しかも毎日チョコレートを5個。そうと知った瞬間から私の想像が広がる一方なのですよ。何故毎日なのか、毎日5個なのか。暫くなぞなぞに夢中になりそうです。

2013/02/18 (Mon) 20:16 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

YUKIさん、こんにちは。良い季節のモカシンをショウウィンドウに見つけるとわくわくします。そして街に緑が萌えたらボローニャは春ですよ。しかし軽やかなショートヘアと書くと聞こえが良いですが、今回ばかりは予定以外の短い髪に文句は無いにしても少々困惑気味なのです。自分に見慣れるまで2週間くらい掛かるでしょう。
飴を買う幽霊のお話、初めて聞きました。子供の頃にこんな本を読んでいたら眠れなくなって困ったに違いありません。しかしながら此の男性の背後にも何かミステリアスな匂いあり。暫く悩んで、我慢できなくなったら直接此の男性に訊かなくてはなりませんね。危険かしら。知らないほうがいいのかしら。

2013/02/18 (Mon) 20:23 | yspringmind #- | URL | 編集

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