予感

DSC_0011 (640x428)


午前遅くから空が晴れた。太陽の光は弱々しいが、しかし何て気分が良いのだろう。窓の外は凍えるような寒さ。しかし空が明るいというだけで溜息が出るほどの安堵である。もっとも其の太陽を楽しむ暇は無く、忙しい1日だった。これが終わったら、次のこれが終わったら、と希望を持ちながら。しかしついに冬の太陽を楽しむことなく夕方を迎えてしまった。就業時間より遅く仕事を終えると外は真っ暗だった。唯一、今日が天気の良い一日であった証拠は、それまでぐちゃぐちゃだった路面がすっきりと乾いていることだった。本当ならば早々に職場を後にして、空の明るいうちに旧市街に行って、フランスのワイン屋さんへ行こうと思っていたのだが、真っ暗な空にがっかりしてそんな気持ちは失せてしまった。旧市街でバスを降りた。二日ぶりに雪が降らぬ夕方に人々は気を良くしたのか、こんなに寒いのにも拘らず賑わっていた。相棒に電話をしたら忙しいと言う。がっかりだった。何故ならレストランに誘おうと思っいたからだった。金曜日だし、忙しい一週間だったし、何かにお祝いしたい気分だったからだった。思いがけず肩すかしをうけがっかりしたが、気を取り直してフランスのワイン屋へ行くことにした。そうだ、金曜日だし、と。先日行ったら冬休み中だった。其の翌週行ってみたら改装中だった。大掃除だったのかもしれないし、新しいものを入荷して取り込み中だったのかもしれない。兎に角店の前のシャッターが半分下りたままだった。まあ良いさ、また来ればいいのだから、と思いながら店の前を離れかけたら、同じように店に入るのを楽しみにしていた客たちが、ああ、今日も閉まっている、と言って溜息をついていた。10月に始まったばかりの店なのに、常連がいるのだな、と自分の店でもないのに嬉しくなった。さて、店には5人の先客がいた。多分彼らは店主の知り合いか常連客で、楽しそうに軽口を叩きながら赤ワインを楽しんでいた。私はその合間を縫ってカウンターへ行くと、今日は新しい種類の赤ワインがあるとの店主の薦めにしたがって、それを注文することにした。美味しかったがもう少し温度が高いほうが風味が高くなるような気がした。しかし私は専門家ではなく、単にそう感じただけだったが、感想を聞かれたので正直に伝えると、店主は成程成程と幾度も頷いた。私のような素人が何を言うかという風ではなく、どんな感想も参考にしようという風に。上の階から店員が降りてきた。初めて見る女性だった。東洋人で、しかし話しぶりは完全なるイタリア人だった。私は店主にそっと耳打ちした。彼女は日本人なのかしら。すると店主は韓国人だと答え、其の後にもごもごと付け加えたが周囲の雑音が店主の声を掻き消してしまった。そのうち女性が私の目の前に来たので思い切って声を掛けた。私はあなたを日本人だと思ったのよ、と。すると、ううん、私は韓国人なの、でも1歳のときイタリア人家族の一員に迎えられたのでイタリア人でもあるんです、と彼女が言った。店主がもごもご言っていたのは多分此のことだったに違いないと思った。ところで彼女と話しているうちに、さて、何処かで会ったことがあるようだと思い始めた。何処だろうか。何時だったのか。私が彼女にそう言うと、彼女は目を丸くして同意するのだった。そうなの、さっきからずっと考えていたの、私たちは随分前に何処かで会ったことがありますね。私たちは互いの顔をまじまじと眺めながら、しかしどうしても思い出せなかった。其のうち店は混みはじめ、彼女は客の対応に忙しくなった。私は店主に勘定を済ませ、店の人達に挨拶をして外に出た。今日店に立ち寄ってよかった。暫くの間、彼女の存在が気になるに違いない。思い出せるだろうか。思い出せないかもしれないが、ひょっとしたら私たちは案外仲良しの関係になるかもしれない。そんな予感がする金曜日の夕方。


人気ブログランキングへ

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2013/01/19 (Sat) 13:25 | # | | 編集
Re: タイトルなし

鍵コメさん、こんにちは。そういうことってありますね。でもきっと何処か出会っているんですよ。だって彼女もまた、私もあなたとは何処か出会っていると頭をひねっていたのですから。暫く悩みそうですよ。思い出す日はやってくるのかしら。兎に角人というのは、そんな風に繋がっているものなのですよね。

2013/01/19 (Sat) 19:18 | yspringmind #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する