自分らしくシンプル

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外の音が一切消えて不思議に思うときがある。そんな時は大抵濃い霧が家の周りを包み込んでいたり、若しくは雪が降っているのだ。昨晩がそうだった。驚くほど静かだった。自分が地上にたった一人取り残されてしまったような静かさだった。そっと日除け戸をあけてみると、雪。雪が降っていた。降るだろうとは思っていたが、こんな風にこっそり降り出すとは思っていなかった。しかしよく考えてみれば雪は何時だってそんな風に降り始め、気がつく頃には木の枝やテラスの植物を白く覆っているのだ。雪は静かに降り続け昼過ぎにようやく止んだ。今日が祝日の土曜日でよかったと思う。家にじっとして居られる祝日の土曜日。

昨日は全く残念だった。本当ならば今年最後の焼き栗を堪能する筈だった、が体調が宜しくないので延期になった。しかしあまり長くは延期できない。何故ならクリスマス前には例の焼き栗屋は店を閉めてしまうからだ。閉めたら最後、来夏のスイカの季節までさよなら、ということらしかった。この焼き栗屋はとてもミステリアスである。私よりずっと若い気さくな青年がひとりで営んでいる。冬の焼き栗屋、夏のスイカ屋。これだけで生活していけるわけがなく、しかもこんな若い人がそれだけで満足するとも思えない。店を閉めている間はどうしているのだろう。旅に出掛けるのだろうか。それとも芸術家か何かで自分の世界に没頭するのかもしれない。奇妙というのか、風変わりというのか。と思い出した。私の親愛なる知人でアメリカに居た頃親しくしていた女性。彼女は年齢不詳だった。私より年上であることは間違いなかったが、間近で見ると肌が赤ちゃんのようにすべすべしていて、うっすらと金色の産毛が生えていた。伸ばしっぱなしの長い髪、ひらひらとルーズなシャツを着ていつもパンツスタイルだった。かっちりした黒ぶちの眼鏡が良く似合っていて、知人を遠くから見つけるとにこにこしながら近づいて、ぎゅーっと抱きしめてくれるような女性だった。そんな彼女だから彼女を慕う人は沢山居て、いつも社交に忙しかった。そんな彼女は何か独特な雰囲気があって、しかしそれが何であるかを言い当てるのは難しかった。別に変な人ではなかったし、背後に暗い影があるでもなく、ただ平凡でないことだけは確かだった。ある日、あれは何処だったか。彼女と話をしているときに私が滑らせた言葉。あなたって奇妙な(weird) 感じよね。すると彼女は怒るでもなく悲しむでもなく、ぱっと顔を明るくさせて、嬉しい、有難う、と言うのだった。滑らせた言葉にてっきり彼女が気を悪くするのではないかと瞬時に案じた私だったから、彼女が喜ぶ様子に驚いた。嬉しいの? すると彼女は言うのだ。人と違うっていいことよ。他人と同じなんて素敵じゃないわ。彼女のそんな言葉を耳にしてやっと今までの謎が解けた。そうか、彼女は人と違っていたいのだ。彼女にとってそれは素敵なことなのだ。そんなことを考えていたら驚くようなことを彼女が言った。ねえ、あなたも奇妙な感じよ。私は夢にも思っていなかったことを奇妙な彼女に言われて嬉しいやら不安になるやら、どんな表情をしたらよいのか分からず、そのうち私たちは笑い出した。そうね、人と違うっていいことかもしれない。その数年後、私はまた別の人と同じようなことを話した。スレンダーでおかっぱの金髪が美しい、一見男性っぽい写真家。彼女が言うのだ。私は他人と違っていたい。共感しあうのはいいことだけど、その他大勢の独りになるなんて嫌だわ。さっぱりとした声でそういう彼女は、あなたも私の類のようね、と私に言った。私はそれには答えなかった。肯定もせず否定もせず。私は単にシンプルに生活することを望んでいる人間。特別でなくても良い。でも人と同じでなくても良い。人のことは人のこととして、自分は自分らしくシンプルに生活できれば良いとももう。あれから20年近く経つ。私の気持ちは今も変わらない。自分は自分らしく、シンプルに生活するのだ。

空を覆う雪雲。今晩もまた雪になりそうだ。


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