北風とジェラート

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帰り道。首をすくめるような寒さに私たちが確かに冬に足を踏み込んだことを感じる。昨日の快晴は今日の昼前まで続いたが、雪が降りそうな雲が急に立ち込めて誰もが心配そうに空を見上げた。雪は困る。もう少し待って欲しい。そんな風に。夕方ふと気が向いてジェラートの店に入った。食前酒でもと思ったのだが、それよりも何か冷たくて咽喉越しの良いものが欲しかったのだ。扁桃腺が腫れていたからだ。友人のことを思い出しては静かに涙し、そしてまた涙した。そんな私を空の何処かで彼女が見ていたら悲しむかもしれない。泣かないで。泣かないで。彼女はそう言うに違いない。そう思って泣くのを辞めた頃、扁桃腺が腫れた。それでジェラートを食べたくなったのだ。

以前ボローニャ市内に住んでいた頃、酷く扁桃腺を腫らせたことがある。医者へ行ったら一週間の安静、そして5日間、朝晩臀部に注射をするように命じられた。それでその注射とは薬局で購入して、自分で、若しくは家の人がぐさりと臀部に射せばよいというものだった。そんなこと、勿論自分で出来る筈がない。かと言って相棒に注射を打って貰うのも怖い。私の常識では、注射とは医者か看護婦さんがするものであったから、大変なショックであった。薬局で購入した10本の使い捨て注射器と注射液の入った袋をぶら下げながら家に帰ってきたら、隣のご夫人に遭遇した。あら、元気がないですね。ええ、実はこんなことになりまして。そんな話をしていたら、私が注射をしてあげましょう、昔看護婦をしてたんですから、と言って彼女は胸を張った。嬉しいが隣のご夫人に臀部を見せるのは恥ずかしい。しかし相棒にぐさりとやられるのはとても怖い。それでご婦人の好意を受けることになった。ご婦人は毎朝毎夕きっかり同じ時間にやって来ては私の臀部にいとも簡単に注射器を突き刺し、痛いけどこれはとてもよく利くのだと言って慰めてくれた。そしてご婦人は相棒に言うのだ。扁桃腺が腫れているときは美味しいジェラートがいいんですよ。それは吉報だといわんばかりに私は近所の美味しい店で1KGSのジェラートを購入するように相棒に言いつけ、まだ腫れが引かないと言っては冷凍庫からジェラートを引っ張り出して堪能したのだ。1週間もすると確かに扁桃腺は奇麗に治った。治ったけれど暫く臀部が痛かった。その痛みを感じながら幾度もご婦人の親切に感謝したものだ。

兎に角、それで私はジェラートを食べたかったのだ。扁桃腺が腫れているときは美味しいジェラートがいいんですよ、とご婦人が言ったのだ。しかし12月のジェラートの店はがら空きで、おかげで大盛りサービスの恩恵に与った。うーん、冷たくて気持ちがいい。でも私はうっかりしていたのだ。店を出てから襲い掛かる寒さを全然計算していなかったのだ。外に出るなり北風に一撃されて、ひゃっ、と小さく叫ぶ。相変わらずの頓馬さに情けなくて笑いがこぼれた。これでいい。もう泣くのはお終いだ。友人が悲しまないように、私はこれかも元気に明るくいかなくちゃ。それが多分、彼女が喜ぶことなのだと知っているから。涙にさようなら。そう呟きながら北風の中を歩き出した。


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コメント

お力落とされませんように。
大切な人を亡くすのは本当に悲しいですね。
私も自分の番が来るまでは元気を出して生きてゆこうとやっと思えるようになりました。

扁桃腺もお大事に。

2012/12/05 (Wed) 10:11 | camera-oscura #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

camera-oscuraさん、こんにちは。彼女は失うには大きすぎる存在で、命を失うには若過ぎました。今でも涙はふとした瞬間に零れ落ちそうになるけれど、彼女の分まで生きようと思うようになりました。彼女の分まで楽しみ、色んな経験をしてみようと思います。それで扁桃腺ですが、今朝薬を飲んだら身体に合わなかったみたいで全く大変な思いをしましたよ! 体が酷くしんどくて扁桃腺の腫れも忘れるほどでした。

2012/12/05 (Wed) 21:54 | yspringmind #- | URL | 編集

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