冬が来る前に

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いつもなら窓のずっと向こう側に見える遠くの丘が霧に煙って見えない。その上、頭上に広がる空には分厚い雨雲がきっちりと敷き詰めてあって、見ているだけで頭が痛くなりそうだ。神経痛もちではないけれど、雨雲が広がる日は頭痛に悩まされることが多い。この時期、郊外の町や村では秋の美味しい収穫物を楽しむ祭りで賑わうから、こんな天気は全く宜しくない。これを心待ちにしている人が沢山居ると知っているから、是非とも青空が広がりますようにと、せめて雨が降りませんようにと祈らずには居られない。ボローニャの人達にとっても、地元の人達にとっても、これらの祭りはスキップしてはならぬ大切な秋の行事なのだ。雨に強かに叩かれて落ちた大きなプラタナスの葉。私の両手を横に並べたくらい大きなものあれば、片手ほどのものもある。どれひとつ同じ色のものはなく、車窓から一瞬眺めるだけだとモザイクのようにすら見える。残りの葉がすっかり落ちたら冬がやって来る。冷たくて淋しい感を拭えない冬。

ボローニャ郊外の丘の町、ピアノーロに暮らして6年目の秋を迎えた。ボローニャの雑音から遠ざかろうと思って、そしてもう少し自然に近いところに暮らしたいと思って此処に暮らすようになった。引っ越してきたのは春だった。この辺りには春が少し遅くやって来るのでまだ冷たい空気が満ちていたが萌え始めた新緑が丘の斜面を覆って目に眩しく、朝の通勤時にそんな様子を望めることに感謝した。夕方の穏やかな空。やってくる春の夜の美しさ。零れ落ちそうなほどの星と美しい月を眺めながらワインを頂くのは幸せだった。そしてやってくる初夏、夏、初秋。どれも望んでいた以上に素晴らしく、此処に暮らせることをその都度感謝したものだ。しかし、冬。私と相棒が想像していた以上に厳しいものだった。目を離した隙に雪が降る。放っておくと積もり始め、朝は雪掻きから始めなければならなかった。私たちには慣れない作業で、雪が降るたびに冬とそれ以外の美しい季節を比較して、私たちの選択が正しかったのかどうかを論じなければならなかった。そういえば相棒のいとこが言っていた。君みたいな寒がりさんがこの丘の冬を楽しめるのかな、と。ボローニャに居たときですら冬になると寒い寒いと大騒ぎしていたのを覚えていたらしく、私をからかうように言った、それを今日になって思い出した。確かに。おかげでこの数年、雪など降ろうものならこの世の終わりのような騒ぎで、窓の外に降り続ける雪のかけらを眺めながら大きな溜息をついたものだ。相棒は溜息をつき暇はなく、何時だって黙々と雪掻きをしなければならなかった。近所に暮らす老夫婦の分まで。そしてもうひとつ。ボローニャの雑音は懐かしくなくとも、例えば家を出てちょっと歩くとなじみのバールや果物屋さんがある生活。私と相棒が出逢って一緒に暮らしたアメリカの町の家がそんな風だった。決して街中ではないけれど、ちょっと其処まで歩くと仲良しの誰かにあえるような生活。いつの日からか、私と相棒はそんな生活を懐かしく思うようになっていた。ボローニャ市内の生活に戻るのは私たちに良いことであると信じたい。帰りのバスが遅い時間まであることや、夕食後に近くの店で友人たちと食後酒を楽しめることや、柔らかな寒さの冬を通過できることや。静けさや丘の斜面を走る鹿たちは望めないけれど、夏の爽やかな丘の風も望めないけど、新しい場所にもポジティブな点は沢山あるに違いない。私のボローニャへの想いが募り始めた頃、吉報が舞い込んだ。私たちの家を買いたい人が出現した。ボローニャに戻ろう!


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コメント

絶賛新居捜索中の我々、yspringmindさんの選択は大変興味深いです。
街の利便性を取るか、郊外の環境を取るか。
今のところ利便性に傾いている我々なんですが、やっぱり郊外の自然にも憧れがあり。。なかなか「これで決定!」と言い切れずにだらだらしています(笑

そうか。ボローニャを選択されたんですね。
街中ですれ違う機会も増えるかな?

2012/11/12 (Mon) 11:10 | erieri #.wMK.8Ds | URL | 編集

そうですか。すべてが上手く行くといいですね。
確かに、このあたりの冬の寒さは何年経っても嬉しくはないですものね。
イタリアは色々な意味で不便な国でもありますし...

引っ越したら、又違った視点でボローニャの旧市街を見ることができるのではないですか?
楽しみにしています。

再び町の人になったら、もっと遊びましようね!

2012/11/12 (Mon) 20:36 | camera-oscura #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

erieriさん、こんにちは。新居捜索中ですか。皆、色々だと思うのですが、例えば私に関して言えばそんな風に考えました。具体的に言うと私も相棒もボローニャ市内で仕事をしているので毎日の往復が大変になってきたこと、それから夕方友達とワインなど嗜むと車を運転できないこと、しかしバスの最終は21時前であること。なんてつまらないことなのですが、案外重要ポイントでした、私には。と言うことで参考になればと思います。それで12月よりボローニャ生活に戻ります。私が思うに私たちは案外今でも随分すれ違っているのかもしれませんよ、お互いの顔を知らないだけで。

2012/11/12 (Mon) 23:15 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

camera-oscuraさん、こんにちは。何だか降って沸いた話なのでどきどきしています。本当にすべてが上手く行くといいのですが。
暫くは仮住まいで不便な生活の予定です、しかし。私は嬉しい。ボローニャに戻ることを心底喜んでいるのですよ。こんなに街の生活が好きだったなんて、今まで気が付きませんでした。うふふ。多分、遊びやすくなりますよ。楽しみですねえ。

2012/11/12 (Mon) 23:23 | yspringmind #- | URL | 編集

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