ぶらぶら歩き

Immagine 161 (Small)


昨晩から降り出した雨が朝方まで続いたらしい。何となく冷える土曜日の朝だった。雨は止んでいるが湿度と濃霧で路面は一向に乾かぬ、という具合だった。道行く人の居ない朝。土曜日にしては珍しいことだった。体がだるかった。熱っぽくさえあった。風邪気味なのか、それとも疲れなのか。多忙な一週間だったから、疲れていても不思議ではなかった。もう一度ベッドに戻ろうか。朝食のカフェラッテにビスケットを浸しながら考えたが、仕事と家の往復のリズムを打ち砕くために旧市街へ行くことにした。良い気分転換になるだろうと思って。

月の第二週末は街中に骨董品市がでる。霧に煙るような天気にも拘らず、Piazza Santo Stefano は大変な人だかりだった。私は骨董品市に向ける興味をぐっと押さえて、その前をバスで通過した。今日は出来れば仕事帰りに歩かないような界隈を散策したかったからである。終点のひとつ前でバスを降りて歩き始めた。クリスマスまでまだひと月半もあるのにポルティコの下にクリスマスツリーが並んでいた。蒼い氷のような小さなライトが点滅していた。早すぎるクリスマス。しかしこの背後にはこんな想いが込められているに違いなかった。不景気だけど楽しく明るくやっていきましょう。もう少ししたらクリスマスなのだから。それにしても寒かった。普段は暖かい室内に居ることが多い私は、11月の寒さを忘れていたようだ。ジャケットを一番上まで閉じて首をすくめる。スカーフを持ってこなかったことを酷く後悔した。少し歩いてからガンベリーニに入った。温かいカップチーノとマロングラッセを注文した。ボローニャに暮らし始めてから様々なマロングラッセを試してみた。ボローニャの、ばかりではない。フィレンツェでもミラノでも、それからそれらの近郊の町でも。そうして一番美味しいと思ったのが、ガンベリーニのそれだった。うーん、美味しい。幸せとしか言いようのない瞬間。私はここのマロングラッセが一番美味しいと思うのよ。カウンターの中で私の様子を窺っている店員にそう言うと、店員も、カウンターに並んでカッフェを頂いている老女も嬉しそうに笑った。老女は此処でよく見かける人だった。常連なのだろう。身なりのよさとセンスのよさからこの辺りの裕福な人であることが分かった。私は彼らに挨拶をして店を出た。久しぶりにVia San Feliceを歩いた。昔はこの辺りを毎日のように歩いたが、最近すっかりご無沙汰だった。私が好きだったカシミアセーターの店が3年前に姿を消した。その後その少し先のあった友人の骨董品屋が店を閉めてから、楽しみや目的をもぎ取られたような気分になって足が遠のいてしまったのだ。久しぶりに歩くこの界隈。目新しい店の合間に見慣れたパン屋やチーズ専門店、50、60年代の小物を置く店がまだ存在することを知って、胸を撫で下ろすのだった。店の前に洒落た人達が沢山居た。単に立ち話をしているのではなく、ショーウィンドウを覗き込んでいるのだ。靴屋だった。私の気に入りで、しかしまだ一度も中に入ったこともなく、眺める専門の。ボローニャでは名の高い店で、顧客には洒落た人達が多い。さて、どんなのが並んでいるのかと見物人に混じって覗き込むと、成る程、今シーズンも趣味が良い。決してお安くない店なのに、店内には随分な客人が入っていた。この店に不況なし。と思わずくすりと笑ったところで、目に留まった。美しいショートブーツ。控えめでシンプルな、質の良い革の、ごっつくない、美しい形だった。それは一目惚れのようなもので、私が長いこと探していたが見つからなかった幻の靴、だった。私は店の扉を押した。若い店員が出てきたので窓辺に置かれていた靴を指差すと、彼女は奥へ行って私のサイズを持ってきてくれた。手にとって見るとますます素晴らしく、質の良い革は単なる見かけでないことが分かった。ハンドメイドだった。試してみると、それはまるで自分の足に合わせて作られたような履き心地だった。ただ、高価だった。勿論それだけの価値のあるものであるにしても。私は暫く悩んで、そして店を出た。もう少し考えてみよう。私がそんなご褒美を今の自分に与えても良いのかどうか。

外の冷たい空気を肩で切りながら再び歩き出した。収穫はなし。しかし気分が良い。土曜日は時間に追われないぶらぶら歩き。一週間の疲れが溶けて流れて出て行くのを感じる。新しいエネルギーが流れ込んでくるのを感じる。そんな日が週に一度あると良い。


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