約束

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昨晩は上等な赤ワインをぐいぐいやった為に目覚まし時計が鳴っても起き上がれなかった。まあ、こんな日もあるさ、といつもの私なら思うところだが今日は事実上リスボン滞在最後の日。明日は5時に起きたらば早々に出発なのだ。さあ。起きろ、と自分にはっぱ掛けてベッドから抜け出す。テラスから階下を眺めると対岸からフェリーが着いたばかりなのか、それとも地下鉄が着いたばかりなのか、地元の通勤者たちが足早に歩いている。そんな様子を眺めながら今日が月曜日であることを思い出す。それにしても2週間なんてあっという間だ。明日はもうボローニャに帰るのだから。明日はもう此処を離れるのかと思うと少し感傷的でもあり、しかし私がリスボンで得た物は多分一生の宝となるに違いなく、思い残すことは無い、そんな気分だ。自分でも驚くほど爽快な気分だ。怒っていた肩から力がするすると抜けた感じ。ずっと溜めていた気持ちを、大きなため息と共の体外から噴出したような感じ。そんな開放感を久しぶりに感じた。多分上手くやっていけるだろう、ボローニャに戻ってからも。アパートメントの建物から出たところで階下に暮らす老女に会った。優雅な年金生活者、といった感じだ。彼女は犬を飼っている。犬は私が階段を上り下りする際に何か不審なものを感じるのか、いつも扉の内側から大変な剣幕で吠え立てる。それはもう大変な興奮のしようで、何事かというくらいの騒ぎである。ところがどうだ、今日は違う。尻尾を振って楽しそうだ。あんた、いつも私に吠えるから嫌われているのかと思ったわよと声を掛けると、奥さん、そんなことは無いんですよ、ほら、僕はこんなに奥さんが大好き、といった感じで擦り寄ってくる。可愛いではないか。しかしまた明朝吠えるかもしれないけれど。老女は笑いながら早口で何か言って、私の背中を2回叩いた。意味は全く分からなかったが、とりあえず彼女は楽しそうだったから悪い話ではなかったに違いなく、老女と犬によい一日をと声を掛けて歩き出した。いつも左折する道を真っ直ぐ行った。見たこともない界隈。2週間もいて、しかもこんな近所なのに今日初めて歩くとは。建物の外壁にはアズレージョのタイル。私はこれが大好きでいったい幾枚の写真を撮っただろうか。道は急激な上り坂で町の中心にありながらも恐らくは住民が好んで歩く通りらしく、生活用品の店が連なっていた。看板の店、水道関係の店、金物屋、酒屋、バール、そして自然薬局。イタリアで言うエルボリステリア、私の大好きな薬草の薬局で、興味を大いにそそられた。小さな店の中には先客がいて、だから私は外で待つことにした。ショーウィンドウを眺めながら。やっと先客の夫婦者が出て行ったので入れ違いに店に入った。実はですね、こういったものを探していまして・・・とまずはでたらめのポルトガルで話し出す。しかしこの薬局の老人には伝わらない。それで今度はイタリア語で、そして英語で。それでも伝わらず、私がうーんと腕を組んで唸りだすと、老人は道の向こう側の大きな店を指差して言った。向こうにも店があって、そこなら英語の分かる人が居ると言う。同じ店だよ。ただ店がふたつに分かれているんだ、君にとっては不思議だろうけど。そんなことを言って私を送りだした。道の向こう側へ行くと確かに英語が分かる女性がいて、確かに同じ店であると教えてくれた。店員は親切で私が探しているものを直ぐに探し出してくれた。感じのよい店だ。多分この辺りの人達の人気の店に違いない。しかし個人的な意見を言わせてもらえば、私は道の向こう側の老人の小さな店のほうが好きである。昔私が暮らしていた田舎町の漢方薬局に似ているからかもしれない。空は快晴、陽射しの強さも快調だ。これが歩き収めかとおもうと少々残念でもあるが、また戻ってくればよい。私とリスボンの約束。数年後、数十年後。私の足が動く限り、私が元気な限り。此処で知り合った人達に会う為に、大好きなパン屋やカフェに立ち寄る為に、鯵の塩焼きと鶏の炭火焼をを味わう為に、船笛に耳を澄ましながら河の風を楽しむ為に。みんなが元気にしていればまた何時か再会できるさ。きっと。


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コメント

リスボン便り楽しみに拝見していました。
良い道がありますね。私もそこを歩いている気分になります。
お元気でボローニャに帰ってきて下さい。

2012/08/21 (Tue) 09:16 | camera-oscura #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

camera-oscuraさん、ただいま。
終わりがあるから良いのかもしれませんが半月なんてあっという間ですね。リスボンは自分が覚えていた以上に良かったです。暮らすように滞在してみましたが、此処は本当に暮らしてみたらもっと面白いかもしれません。そして帰ってきたら41度でぐったりしています。ボローニャって本当に暑い町なのだなあ、と改めて驚いています。

2012/08/22 (Wed) 20:11 | yspringmind #- | URL | 編集

旅行記楽しみに読ませていただきました。私も知らない街を歩いている気になっていました。
アパートを借りて泊まれるなんて、つい最近知りました。私の友人も1ヶ月ほど前にポルトガルを訪れていたのです。友人とアパートを借りたって言ってました。私もそろそろ遅い夏休みの予定をたてなくちゃ。

2012/08/23 (Thu) 06:41 | HKMONKEY #leuAsTtQ | URL | 編集
Re: タイトルなし

HKMONKEYさん、こんにちは。旅行はいいですね。おかげで肩の力がすっかり抜けてほっとしているところです。私は長くひとつのところに一週間以上滞在するときはアパートメントを借りることにしています。それは暮らすように滞在できるからで、そしてその土地の暮らし具合を覘くことが出来るから。勿論家で食事が出来る気楽さもありです。これから夏休みですか。いいですね。楽しい計画立ててくださいね。

2012/08/23 (Thu) 12:09 | yspringmind #- | URL | 編集

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