リスボン散策

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フェリーボート乗り場へ行った。Barreiroと言う名のテージョ河向こう岸の町へ行こうと思ったからだ。その町に何が在るのかは全く分からないが、フェリーボートに乗って河を渡りたいと思ったのだ。乗客は案外多く、船はびっくりするほど時間通りに発着した。河幅は私が思っていた数倍広く、ひょっとしてこれはやはり海なのではないだろうかと地図を引っ張り出して何度も確認しなければならなかった。河には魚が沢山居て、それから大きなくらげも沢山居た。くらげは海から来るに違いなく、ここが海のすぐ手前であることを実感した。Barreiroは思いがけず何も無く、一応町の人にも尋ねてみたが、新しい住宅ばかりで何も無いよ、とのことだった。私は暫くぶらぶらしてまたリスボンに戻ってきた。行きの時にいた乗り場の係員がすぐに戻ってきた私を認めると、ほーら、何にも無かっただろう、と言うような顔をしたので私は苦し紛れの苦笑いをして係員の前を通過した。その足である店を目指した。店はケーブルカーのグロリア線すぐ近くにある筈だった。10年前、店の前で魚を焼いている様子が気に入って入った店。儲けはあるのかと心配になるほど安くて、しかも美味しくて、だからテーブルはどれも埋まっていたから、私は店の奥のほうで相席させて貰ったのだ。あの日、私は鯛の炭火焼を頼んだ。頭が下がるほど美味しくて、もう一度この店で、と楽しみにしていたのだ。鯛でなくても良い、そうだ、鰯だ、鰯を注文しよう。ところがこの通りの何処もが小奇麗になっていて、私が楽しみにしていた店の姿はもう無かった。多分この辺だったはず、と足を止めたが、洒落たモダンな店に変身していた。店の名前も、店の中にいる人も違った。私は肩透かしを受けたような気分で、丁度来たグロリア線のケーブルカーに乗った。Bairro Altoと呼ばれる界隈。昔、旅の間に知り合った人とファドを一緒に聞きに行ったことがある界隈だ。私は店先で鰯を焼いている店はないかとさ迷い歩いたが、ついに一軒も見つけることが出来なかった。もしかしたら時代の流れなのかもしれない。もう鰯は店先で焼かない、そういう時代。そんなこともあって昼食を食べそびれてしまった。その代わりに私が覚えているリスボンの古いものを沢山見つけた。ビッカ線のケーブルカー。急な坂道を上がったり下ったりする。距離は長くないけれど、これに乗るとリスボンに居ることを実感できる。それでこれに乗って坂の下へ行こうと思ったが、ケーブルカーの中はイタリア人の若者たちでいっぱいだった。彼らは外国へ行くと自分たちの言葉は誰にも分からないと思うらしく、大きな声でとんでもないことを言う。彼らはこんな話をしていた。彼女は日本人だろうか。それにしては黒くないか。それから日本人は大抵小奇麗な格好をしていて、びっくりするほど細い。あんな袖なしシャツにショートパンツで日焼けしている日本人なんて居ないんだから。と言うことは彼女は日本人ではないね。・・・どうやら私のことについて話しているらしかった。あんたたち、イタリア語を話すのはあんたたちばかりじゃないのだから。そんな言葉を飲み込んで、その代わりに大きなため息をついてケーブルカーに乗るのをやめた。急な坂道をとぼとぼ降りた。そういえば10年前も乗らずに歩いた。この辺りに限らずリスボン市内は今、急激に変わろうとしているような印象を受ける。工事がいろんな所で行われていて、新しい道、新しい建物、新しい店に変身していく。私は自分が今どの辺りを歩いているのか分からないまま歩き続けた。と食料品市場の裏手に来ていた。リベイラ食料品市場だった。雑然とした雰囲気の中に一軒の店を見つけた。特別な店ではないが、いい感じで寛げそうな店。中に入ると錯覚を起こした。私がアメリカに居たころよく通った店の雰囲気に似ていたからだった。古臭くて汚くもないし、モダンで洒落すぎても居ない。素朴でこざっぱりした、どのテーブルも椅子も種類が違ってよく使い込まれた感じの、安堵のため息が思わず零れるような店だった。私はここでアルコール度の低い爽やかな白ワインと空腹の穴埋めをするためのパンとポルトガルの羊のチーズを注文した。店には私の他にひとりだけ。秘密の隠れ家にとっておきたいと思った。が勿論秘密に出来るような場所でもなく、30分もすると次々と客がやってきていつの間にか一杯になった。私は勘定を済ませ、また来る約束をして店を出た。


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コメント

リスボンの町の歩き方、楽しいですね。てくてくと歩いている姿が目に浮かびます。それにしてもイタリア人のくだり、笑ってしまいました。私もじゃあ、日本人と認識されないかも。。。

2012/08/14 (Tue) 06:00 | ineireisan #pNQOf01M | URL | 編集
Re: タイトルなし

ineireisanさん、この町の散策は飽きることがありません。特に下町。時代が変化しても、いつまでも昔ながらの雰囲気を保っていて、ほっとしたりもするのです。下町と下町の人々。それがリスボンの魅力です。それで私は色黒なのでフィリピン人に見えるそうですよ。

2012/08/15 (Wed) 00:38 | yspringmind #- | URL | 編集

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