熱風

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暑くなる予報が出ていたのだ。こんな日に髪を切りに行くのかと悩んだ挙句、早起きして行くことにした。涼しいうちに行って、さっさと帰ってくれば良い。運良く店は驚くほど空いて待つことなく髪を切ってくれた。予約を取らないこの店で、いつも混み合っていて待たされるのが常なこの店で。店の人達は陽気だった。14時には仕事を上がって定休日の月曜日の夜まで海へと繰り出すのだろう。それとも涼しさを求めてアペニン山脈にある家にでも行くのか。それともあと一週間でやってくる夏休みのせいかもしれない。兎に角、客に笑顔と庭で収穫したという美味しい果物を振舞って、とても楽しい雰囲気だった。あなたはどうするの? 夏休みのことらしかった。それでリスボンにアパートメントを借りたこと、予定は無しの気ままな毎日を過ごすことを手短に教えた。それであなたはどうするの? 今度は私が訪ねると、シチリアの小島に行くと言う。この島の噂は聞いたことがある。飛び切り海が奇麗だって。この島に家を持っている友人夫婦を訪ねるのだそうだ。目に浮かぶような楽しい夏休み。海の幸と白ワイン。いいわねえ、と羨むと、そうなの、海の幸と白ワインなの、と言って白い歯を見せて笑った。旅先の素晴らしさは食事が大いに関わってくる。私たち、イタリアに暮らす人々にとって、それは実に大切なことなのである。そういうあなただって、と言うので、そうなの、鰯の炭焼きがね、と答えて、勿論美味しいワインも待っているのと付け加えた。8月の終わりに会いましょう、楽しい夏休みを。店の人や見知らぬ他の客たちにそんな言葉をかけて店を出た。射るような太陽。熱風が街中を満たしていた。他の店を覘く気も、カフェで冷たいものを注文する気も失せるような熱風。寄り道せずに帰ることを決めてバス停に向かう途中で名前を呼ばれた。いや、正確には自分の名前を呼ばれたような気がしたが・・・気のせいだろうか、そんな感じだった。周囲を見回したが覚えるなる顔はなく、と、もう一度今度は確実に聞こえた、私の名前だ。声の主は数メートル背後にいた。私は気が付かなかったのだ、私の友人たちと小さな子供とすれ違ったことに。それほど熱風にやられてしまっていたらしい。もう一年半も会っていなかった彼らと、こんな所でこんな熱風の中で再会するとは。もし私が暑いからと髪を切りに行くのを断念していたら、もし店が混んでいたら、もし私が寄り道をしていたら、彼らと会うことはなかっただろう。そうしてまた年月が経ち、もしかしたらずっと会わずじまいだったかも知れなかった。小さな子供が眠くなってきたのですぐに切り上げなければならなかったけど、久しぶりに元気な顔を見れて嬉しかった。ああ、暑い。こんな日に旧市街に来るなんて、と呟きながら、けれども友人たちに会えたこと、けれども髪を切ってもらいながら楽しい時間を過ごせたことと思い出して、ううん、やっぱり来てよかったと呟きなおした。
熱風は夕方になっても治まらない。晩になっても治まらない。寝苦しい、熱帯夜になりそうである。


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