メロン

Immagine 389 (Small)


数日涼しい日が続いていたので体がそれに慣れてしまったらしい。思い出したように戻ってきた暑さの大波に飲み込まれてしまいそうだ。7月下旬。日没時間が早くなったようだ。ほんの、ほんの少しだけど。21時を回った頃になると夜の準備が整ったとでも言うように、空の色が濃くなっていく。そういうことで感じるのだ、夏の真っ盛りとはいえ、季節が私たちの上を通過しようとしていることを。旧市街の洒落た店の外から中を覗きこんでいたら、緑色のバッタが飛び跳ねているのを見つけた。一体何処からやって来たのか。冷房の効いた店内に紛れ込んで彼も驚いていることだろう。人間が怖いらしく気配を感じてはびっくりして飛び跳ねるが、誰も彼に気が付かない。誰かが外に出るときに、彼も一緒に店を出られることを祈るばかりだ。その帰り、バスの座席に着いていたら足にごつんと何かが当たった。正確に言えば前方から何かがやって来て、私の足に衝突したというか、命中したといった感じだった。思いがけずの衝撃。足元を見たら直径にして20cmあるかないかのメロンだった。おお、メロンだ。メロンを取り上げるといい匂いがした。食べごろ、そんな感じの匂いだった。しかし一体何処の誰のメロンなのだ、と思っているとふたつ前の席のご婦人がバスの揺れに注意しながら慌てて私のところにやって来た。ごめんなさい、うっかりメロンが袋から飛び出して転がってしまったの。彼女は申し訳無さそうな表情で詫びた。大丈夫、ちょっと驚いただけ、と言ってメロンを彼女に手渡した。その瞬間にまたいい匂いがした。熟れた美味しいメロンのようですね、と彼女に言うと、笑いを堪えながら彼女は答えるのだった。市場で今夜食べるための甘いメロンを選んで貰ったものだから。メロンのいい匂いは周囲の人々の鼻にも届いていたらしく、通路の向こうに座っている奥さんが、これはきっと美味しいわよ、と言った。そうしているうちに彼女の袋からもうひとつのメロンが転がり出て、別の席をめがけて転がりだした。あらあら。そう言いながらよたよたと彼女がメロンを追いかけるその姿が妙に面白く、しかし滑稽ではなくて昔の映画を見ているような印象で、それが実にイタリアらしくてボローニャらしくて楽しかった。ご婦人は無事にメロンを捕まえると、皆にさようならの挨拶をしてバスを降りた。家に帰るとメロンがあった。相棒が知り合いから分けて貰ったのだそうだ。ほら、いい匂いがする。今夜が丁度食べごろの匂いだ。そう言って喜んでいる相棒を見ながら、この奇妙な偶然に私は可笑しくて堪らないのだった。


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  • 2012/07/28 15:44

yspringmind

鍵コメさん、有難うございます。長いという点だけ見れば確かに贅沢ですが、内容は実に質素で普通です。それでは楽しみにしていますね。
  • URL
  • 2012/07/28 23:08

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