私の町

Immagine 058 (Small)


ボローニャの旧市街から少し南に行ったところにMulino Parisio と呼ばれる場所がある。昔、ボローニャ南部の丘や山に広がる農地で収穫された麦を挽いていた場所で、1800年代に建てられたそうだ。ボローニャ旧市街を取り囲む環状道路から数えれば車で5分くらいの場所である。しかしこれが建てられた頃は、旧市街の門を出たら田舎のような扱いだったそうだから、この場所もまた田舎の麦精製所として位置づけられていたに違いない。今なら大した街中だけど。此処が田舎ならば私が暮らす丘の町ピアノーロなどは避暑地扱いだったかもしれないね、と何時だったか冗談で言ったことがあるけれど、実際ボローニャ旧市街から5kmも外に出れば休暇を過ごす立派な田舎町だったそうだ。さて、そのMulino Parisioの煙突。細長い姿で道路のすぐ脇に立っている。先日の地震で煙突にひびが入ったとか、入らなかったとか、とにかくこれが倒れたら大変なことになると判断が下されたらしく、長いことこの界隈のシンボル的存在だったが遂に引退を迫られることになったそうだ。数日前からこの辺りは通行止めで、どのバスも大きく迂回しての運行だ。イタリアの建物は大体が地震を想定せずに建てられたから、そして煉瓦を積み上げての建築だから、先日のような少し大きめの地震が来ると崩壊してしまう。確かに煙突の周囲に暮らしている人にしてみれば不安も不安、怖いに違いないのだ。残念なことである。そうやってひとつ、またひとつ、古いものが姿を消していくのだから。多分周辺の人達だって残念に違いなく、しかし選択の余地がなかったのではないだろうか。通行止めが終わっていつもの道を通るときには、あの煙突の姿が消えている。もうあの界隈をMulino Parisioと呼ぶにふさわしくないのではないかと思うと同時に、人々は何時までも昔どおりの名前を懐かしい気持ちを込めて呼ぶのだろう。そうであると良いと思う。そういえば何時だかバールでお喋りをしていた時、ああ、あの道は何と言ったかな、via Santo Stefanoのガルガネッリのバス停を降りてstrada Maggiore に向かう道・・・と私が言うと、知り合いが目を丸くして驚いた。彼はもうすぐ65歳の、大変物知りで色んなことを教えてくれる親切な人である。その彼が、君はどうしてガルガネッリなんて名前を知っているのだ、と言った。答えは大変簡単で、バスの中でいつも次のバス停はガルガネッリとアナウンスをするからだった。私がそっけなくそう答えると彼はますます驚くのだ。へえ、バス停の名前になっているとはね! そう感嘆して一息つくと、教えてくれた。その辺りには昔ガルガネッリと言う名の美味しい魚料理を出すレストランがあったのだそうだ。安い店ではなかったらしいが兎に角美味しかったから、いつも混み合っていた、それなのに店を閉じてしまったのだ。残念だったなあ、と彼は話を締めくくった。車で移動派の彼だから、バス停にまで店の名前が付いていたとは今の今まで知らなかったらしい。だから私の口から懐かしいガルガネッリの名前が飛び出して、大層驚きそして嬉しかったのだそうだ。私はボローニャに住み始めた頃にはガルガネッリは既になかったから、そういえば私にしてもバスの中で次はガルガネッリとアナウンスするのを初めて聞いた時は、はてな、と首をかしげたものだ。バス停は大抵その辺りのタ古い建物や道の名前が付いているものだから。店が無くなってもこんな風に呼ばれ続けるバス停の名前は、素朴なボローニャらしくて良いと思った。そんな素朴さが好きな私は、案外この町にぴったりなのかもしれない。ローマ遺跡が所々に残る浪漫のローマより、運河が情緒を生み出すヴェネツィアより、ルネサンスの美が今もしっかり残る芸術のフィレンツェより。分厚い赤い壁とポルティコくらいしか表現のしようのない素朴なボローニャで丁度良いのだ。運命だったのかもしれない。


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コメント

こんにちは。

町の古い地名が残っている、残しているというのは、とても素晴らしいことですね。

私の住む町は、旧城下町ですが、昔は、大工町、廓町、北町などと呼んでいた場所が、徐々に新しい名前に変わってしまいました。

変えざるを得ない難しい問題があるのでしょうけど、やはりツマラナイですね。

今、ボローニャ市街の地図を眺めています・・・。

2012/06/11 (Mon) 08:32 | Via Valdossola #P6wRKz4w | URL | 編集

生まれ育った所から、1キロにもならない所に住み始めて10数年
眺めがよく、晴れていても雨でも 家にいると ず~っと外を眺めている
夕日がとにかく綺麗で、季節も感じる・・・
太陽が あっちに沈むね・・・昨日は、あっちだったのに、夏も近いね
なんていいながら
太陽が沈むずーっと右側の方で最近あちらこちらに高層マンションが
沢山建っていたのには驚いた!!!
いつのまに?
やれやれである

2012/06/14 (Thu) 08:55 | 春風 #jgTtIlIo | URL | 編集
Re: タイトルなし

Via Valdossolaさん、こんにちは。返事が遅くなってごめんなさい。ちょっと体調悪いんです。
旧城下町は確かに古くて味わいのある名前が多いですね。それらが少しづつ消えていくのは全く残念な話です。そうせざるを得ない理由はあるのでしょう、しかし残念であることに違いはありません。ボローニャにやっと夏が来ました。これからぐんぐん暑くなる筈です。ボローニャに来る時にはぜひ声を掛けてください。木曜日に塔の上でのアペリティーヴォをお誘いしますから。

2012/06/15 (Fri) 17:56 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

春風さん、こんにちは。ずっと暮らしている家から見える眺めが少しづつ変化していく・・・其れが時代の流れなのかもしれないけれど寂しいような気もしますね。私が育った日本の田舎町。引っ越してきた当時はずっと向こうまで見渡せて家が少なくて寂しいくらいだったのに、いつの間にか密集して、当時出現した雉や野うさぎも見かけなくなって久しくなります。今はその家を手放してしまいましたが、時々あの当時の田舎風景を思い出しては懐かしむのです。これも時代の流れなんですね。

2012/06/15 (Fri) 18:01 | yspringmind #- | URL | 編集

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