土曜日

Immagine 041 (Small)


駆け足で日々が過ぎていく。気がつけばもう土曜日である。近頃天候が不安定で5月中旬らしくない。もう必要ないだろうと仕舞いこんだ衣服を引っ張り出す毎日。私だけではない。ボローニャの街はそんな5月らしくない装いの人々で一杯だ。私たちの初夏は何処へ行ってしまったのだろう、と嘆く私に周囲の人々は窘める。大丈夫、必ず初夏はやってきて、そのうちうんざりするほど暑くなるから、と。雨が降るかと思えば強い日差しが照りつける。旧市街の横断歩道で信号待ちをしていたら、背後に立っている女性たちの話が聞こえてきた。どうやら彼女のお母さんは扁桃腺を腫らせて高熱で寝込んでいるらしい。こんな天候では体調を崩しても仕方がないということで話に区切りがついた。道を渡ってポルティコの下を歩く。通路は大抵大理石で雨で濡れると滑りやすくも基本的に平らでとても歩きやすい。基本的に、と付け加えたのは何しろ大変古いものなので時々修復を要する箇所があるからだ。そういう箇所は大変少なく、なかなか手入れが行き届いていると感心する。この数ヶ月の間にボローニャの外の街を何度か訪れたが、その度に私はボローニャのポルティコを懐かしく思った。急に雨が降られて散々濡れた時。それからがたがたの石畳を長い時間歩いて足が恐ろしく痛くなった時。ボローニャならばこんなことにはならないのに。私はそんなことを思いながら、いつの間にかボローニャが、ポルティコが、私の生活に深く浸透しているのを実感するのだ。今日は存分に街を散策した。少々疲れたのでガンベリーニで休憩することにした。ピスタッキオのビスコッティ、それからカッフェを注文した。ここのピスタッキオのビスコッティは絶品だ。ほろほろと崩れるように口の中でふんわり溶ける。最近初めて頂いて感激して、それ以来此処にきたら注文せずにはいられない。休憩と言えどテーブル席に着くでもない。ひとりの時は大抵カウンターで立ったままでの休憩だ。それでも美味しい菓子とカッフェを頂けば、疲れは水のように流れていく。と、店の外に警察官がいるのが見えた。ひとりが老女と話していて、もうひとりがガンベリーニのテラス席に座っている男性と話していた。何か質問しているようだ。それでカウンターの中の店員に何かあったのかと訊いてみたら、どうやらあの老女は歩いているうちに何が何だか分からなくなってしまったらしい。今、自分が何処にいるのか、自分の家が何処にあるのか、自分の名前にしても。それでテラス席に座っていた客が警察に助けて貰おうと電話をしたらしかった。ベージュ色の春のコートと踵が高くも歩きやすそうな靴を履いた身奇麗な淑女風白髪の老女は、見たところ80を越えているようであった。歩いているうちに何が何だか分からなくなってしまったなんて。いつもは言葉すら交わさぬ若い店員と私は心配そうに彼女の様子を伺いながら、あの年齢だからそんなことがあっても仕方が無いのかもしれないけれど、自分の親のことが急に心配になってきたなどと話しをした。何だか悲しいね。歳をとると言うのはこういうことなのかもしれないね。私はガンベリーニを後にしたが、ずっと老女のことが忘れられなかった。午後になって雨が降った。ほんのにわか雨だったけど。老女は家路につけただろうか。それとも家人が迎えに来ただろうか。老女の姿が自分の母の姿と重なって、胸を締め付けられるような、そんな土曜日。


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コメント

こんにちは。
この女性は、無事に帰宅できたのでしょうか。家族と会えたのでしょうか。
私の父も他界する前に認知症になり、街を徘徊することもありましたが、昔から住んでいた街なのであちらこちらに顔見知りがいて、その人たちに助けられてきました。
一つの街に長く住むことは、高齢になってから自分の身を助けることになるものなのですね。
きっとこの女性も、顔見知りの人に出会って家に帰ることができたでしょう。
この女性もボローニャもとても古い歴史を持っているのですから。

2012/05/20 (Sun) 00:00 | Via Valdossola #P6wRKz4w | URL | 編集

こんにちは。お久しぶりです。地震があったそうですが、大丈夫ですか?

2012/05/20 (Sun) 06:36 | ヤマモモの木の上で #VufNGL1Y | URL | 編集

地震は?
大丈夫ですか?
バスは動いていますか?
余計なこととは思いますが、食料の備蓄は?

2012/05/20 (Sun) 09:40 | Via Valdossola #P6wRKz4w | URL | 編集
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2012/05/20 (Sun) 12:05 | # | | 編集

地震が心配です。。

2012/05/20 (Sun) 17:08 | Moda #mQop/nM. | URL | 編集
Re: タイトルなし

Via Valdossolaさん、こんにちは。古いイタリア人は自分が生まれ育った街を離れないですから、多分誰か知り合いが通り掛って一緒に家に帰ったか家族を呼んで無事に家に着いたであろうと想像します。私の父は長年寝たきりでしたが、その少し前に降りるべきバス停で降りることが出来なくて終点の別の町まで行ってしまい困ったことがありました。思うにその時の父は大変心細かったのではないかと思います。あの老女がそんな心細い気持ちになっているのかと思ったら胸をギュっと手でつかまれたような、つらい気持ちになりました。人間は必ず老いていく。老人だから、の一言で片付けられないと思うのです。

2012/05/20 (Sun) 18:37 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

ヤマモモの木の上でさん、こんにちは。お元気ですか。
ご心配有難うございます。こちらボローニャ近郊で大きな地震がありましたが幸運なことに私が住む辺りは大きく揺れただけで被害はありませんでした。震源地の町の古い教会が刻一刻と崩壊しています。

2012/05/20 (Sun) 18:39 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

Via Valdossolaさん、地震はかなり大きかったようです。家の辺りも酷く揺れたそうですが私は熟睡していたので気がつきもしませんでした・・・。震源地の小さな町では建物が崩壊したり支社やけが人が出て大変なのことになっていますが、ボローニャ辺りはいつもどおりの生活です。バスも動いてますよ。ちなみに家には備蓄の食糧が驚くほど沢山あります。

2012/05/20 (Sun) 18:42 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

鍵コメさん、こんにちは。元気ですよ。この不況でもガンベリーニは全然関係なく繁盛しています。今度ボローニャに来るときには、来る前に知らせてくださいね。夕方の時間を確保しますからね。
地震はかなり大きかったようです。被害も結構ありましたがボローニャは大丈夫。私なんて気がつかずにぐっすり寝ていた幸せものです。

2012/05/20 (Sun) 18:45 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

Modaさん、こんにちは。地震は突然やってくるので本当に油断がなりません。今回はボローニャとフェッラーラの間の小さな町が震源地でしたが、その辺りは予想外の被害となりました。地震といえば日本も頻繁に地震があって、怖いですね。用心するに越したことはありませんが、地震に対する用心って一体どうしたらよいのでしょうね。

2012/05/20 (Sun) 18:48 | yspringmind #- | URL | 編集

そこまでボローニャを愛してるんなんてうらやましすぎです。私も昨日ミュンヘンっっていいなーーーと叫んでましたが、でもしみじみと長く住んでみないと身につかないものってありますよね。このコーヒの休憩の仕方とても素敵だと思います。

地震は知りませんでした。。なにもなかったようでよかったです。
いつか絶対に行きたい街が地震で崩れてしまったら、、、寂しいです。。

2012/05/21 (Mon) 06:48 | ineireisan #pNQOf01M | URL | 編集
Re: タイトルなし

ineireisanさん、こんにちは。私はボローニャを愛しているのかな、と実は自分でも分からないところですが、肉に骨にボローニャの生活が沁み付いていることは確かなようです。一度ボローニャに遊びに来ませんか。ミュンヘンからなら乗り換え無しのひとっ飛びです。美味しいワインにお誘いします。私の方は一度はミュンヘンに行ってみたいのですよ。ボローニャの街自体は地震の被害はありませんでした。ありがたいことです。

2012/05/21 (Mon) 22:45 | yspringmind #- | URL | 編集

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