苺の匂い

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昨日相棒が苺を買って帰った。いつもなら直ぐに切ってレモンと砂糖を振り掛けて苺のデザートを作るところだが、大粒の真っ赤な苺だったのでこのまま頂くことにした。と言ってもまだ頂いてはいなくて今晩のお楽しみなのである。キッチンに置かれた苺の前を通るたびに甘い匂いがする。私の大好きな匂いだ。そうしているうちに友人と交わした言葉を思い出した。あれは5月だったと思う。私がまだフィレンツェの職場に毎日列車で通っていた頃のことで、忙しい時期を通り過ぎたからと、私は休暇を取ってブダペストへ行った。友人がまだ前のアパートメントに住んでいた頃で、彼女の家に居候していた私は家から少し歩いたところの停留所から川に沿って走るトラムに乗って街の中心へ行った。5月ともなると厳しい寒さのブダペストにも春がすっかりやってきていて街は若葉が萌え、花が美しく咲いていた。友人は仕事をしていたのでいつも夕方街中で待ち合わせをした。ある日は大きなショッピングモールの前で、ある日は西駅の前で。ある夕方、私たちは夕食の買出しをした。街の真ん中の大きな食料品市場ではなく、小さな市場だった。足を踏み込むと甘い匂いが鼻を突いた。直ぐに分かった。苺だった。良く熟れた苺は驚くほど赤くて、口に入れなくてもどんなに甘いか想像できた。苺を食い入るように眺める私に気付いた友人が、それでは苺も買おうといって手に取った。この時期はもう国産だから、と言って。その時ふと思い出した。そういえばもっと早い季節に私がこの町を訪れたとき、田舎町の寂しい道で苺を売っている人を見つけて喜んでいる私に向かって友人は言ったのだ。今の時期に出回っているのは皆スペイン産だから、と。つまりまだ苺の季節ではない、苺は国産物が出回る時期に食べるのが一番、若しくは苺は国産でなくてはね、と言うことだ。私は自分より若い友人がお母さんのように私を窘めたような気分になって少々恥ずかしい思いだった。でも実際そうだ、野菜にしても果物にしても、その季節のものが一番なのだ。季節のものは身体の栄養となり、私たちに元気を与えてくれるのだ。それであの夕方買った苺だけれど、私が子供だった頃に食べた苺のように美味しかった。私の小学校の先生の家は苺農家だった。一度だけ生徒たちが招かれて苺狩りをさせて貰ったことがある。赤いのだけを摘むんだよ、と教えられて私たちは夢中になって苺を摘んだ。水で泥を落として口に放り込むと甘くて美味しかった。どの子供の顔からも笑みがこぼれて、其れは其れは楽しい一日だった。ブダペストで食べた苺はあの日の苺と同じだった。昔からの苺らしい苺の味だった。今夜の苺はどうだろうか。と、気になって確認してみたらスペイン産だった。別にスペイン産が悪いというわけではない。スペインに春が一足来るだけのことだ。それにこの苺は充分いい匂いがする。しかし。相棒に教えておかなくては。果物は国産が出回るまで待たなくてはね、と。それは良いとしても苺の匂いでブダペストに飛んで行きたくなった。夏時間の長い夕方、開放的な空気、美しい本屋の二階のカフェ、そして友人とのお喋り。実現するのはずっと先のことになりそうだ。


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コメント

スイスでは家庭菜園の片隅になるいちごを食べられるのは5月末ぐらいです。それはそれは甘くってとってしまうともうすぐに食べないといたんでしまうような熟れ方です。

昨日ヴィチェンツァの近郊に何とか到着。ストライキのおかげでミラノから乗るはずだったレッジョ?がなくヴェローナまで急行で行き、駅前にでたら同僚にばったり。その同僚を迎えに来たまた同僚が新しく大きな車で来たので便乗させてもらえて無事に。

いい1週間になりますように。

2012/04/23 (Mon) 06:55 | basilea #V1zXMXvE | URL | 編集
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2012/04/23 (Mon) 10:48 | # | | 編集
Re: タイトルなし

basileaさん、こんにちは。スイスのお家の庭では5月末ですか。イタリアでも5月、5月が旬です。“とってしまうともうすぐに食べないといたんでしまうような熟れ方”だなんて聞いただけでどんなに甘いかが想像できますよ。
列車のストライキに遭遇ですね。私も土曜日に隣町へ行きたかったのですが断念しました。イタリアのストライキはすると言ったら本当にしますから。直ぐに話し合いで解除される日本のストライキが懐かしいです。

2012/04/23 (Mon) 22:36 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

鍵コメさん、こんにちは。苺に白アスパラガス、どちらも春の名物ですね白アスパラガスはイタリアでは旬になっても高いので、私はめったに購入しません。でも美味しいんですよねー。
ところでイタリア人は食に保守的です。いや、最近の人は食の国境を軽く越えていますが、古い世代ともなるとイタリア料理でなくちゃ!とそんな感じ。しかもですよ、ボローニャの老人は料理はやっぱりボローニャ料理でなくちゃ!とこんな感じです。70歳を過ぎた人ともなるとそういうタイプが多いようです。びっくりですよね。

2012/04/23 (Mon) 22:42 | yspringmind #- | URL | 編集

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