ポルティコの下

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ようやく冬のコートに別れを告げて10日ほどが経ち、軽いコートで出掛けるのが楽しい毎日。こんなことくらいで楽しくなれるのだから、実に単純であると自分の事ながら可笑しくて笑ってしまう。明日からはもう一歩踏み込んでみようと思っている。例えば春のスカーフにするとか、足元を軽快な踵の低い靴にしてみるとか。それからセーターを脱いで薄いシャツにしてみるとか。勿論、春の気候は変わりやすいので油断は出来ないのだけど。先日いい店を見つけた。こんな店があっただろうかと首を捻って考えてみたところ、思い出した。此処には長いこと違う店があったのだ。とても地味な下着やらパジャマやら、靴下やら木綿のハンカチーフなどを置いている店だった。私の散策に欠かせないその通りのポルティコの下を歩くたびに、その店の前で足を止めた。洒落っ気の無い店だったが、イタリアのある年代層の人達の生活や習慣がそっくりそのまま鏡に映したようなショーウィンドウを見るのはなかなか面白かったからだ。その年代層とは70歳以上の、そうだ、戦争を体験した貧しいイタリアの時代を通過した人達のことだ。以前、まだ舅が元気に自転車で走り回っていたころ、戦争時代、そして終わってからのことを話して貰った。テレビで見たドキュメンタリーフィルムと舅の話はよく一致していて、それから本で読んだその様子ともよくかみ合っていて、私はまるで自分が舅と一緒にその時代を通過してきたような錯覚に陥ったものである。私は戦争の話はあまり好きではない。とても辛い気分になるからだ。しかしそんな辛い時代を見てきた人達から話を聞くのは大切なのではないかと思う。自由で豊かな時代に生まれて育った自分が、話を通じて今ある幸せが当たり前でないことを知る大切さも加えて。兎に角、その店は質素と倹約を強いられていた時代に丈夫で長持ちの必需品を手に入れる贅沢、喜び、感謝みたいなものがギュッとつまったような店だった。初めて見た時、咄嗟に相棒の両親が好きそうな店だと思った。高級品は無く、しかし実用的なものが置いてあった。その中でも花柄の木綿のハンカチーフは印象的で、同時にどこかで見たことがあるなあ、と思った。後で相棒の両親の家に似たような物があることが分かった。やはり彼らの世代が好きそうな店なのだと確信して、可笑しくて暫く店の前を通るたびに笑みがこぼれた。数年前、閉店セールをしていた。もう店じまいなのかと思ったが、閉店セールは1年も続き、この店はしまらないのかもしれないと思い始めた頃、急に店が無くなった。ずっと抜け殻のようになっていた店がいつの間にか洒落た店に変身した。小奇麗なショーウィンドウを眺めながら、しかし心は何故かあの地味な店ばかりを想っていた。


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コメント

こんにちは。

そうですね。現在と過去の時間が体内で重複して一層深い感じ方を作り出しているのでしょうね。

東京は、卒業式の季節です。

皆、どのような過去をこれから作るのでしょうか。

で、この写真は、どこの通りでしょうか。見たことの有るような、ないような…

2012/03/23 (Fri) 09:00 | Via Valdossola #P6wRKz4w | URL | 編集
Re: タイトルなし

Via Valdossolaさん、こんにちは。イタリアには現在に過去が同居しているようなところが多々あって、私はそれを案外気に入っているのです。それから老人たちの昔話を聞くのも好きです。
この写真はvia Oberdanですよ。Via Valdossolaさんもよく歩いたのではないかと想像しますがいかがですか。

2012/03/23 (Fri) 23:37 | yspringmind #- | URL | 編集

” 高級品はなくて。。。 ある世代の人が好きそうなものを置いている店 ”
店主も含めてその人々が消えていく。 メランコリックな気持ちになりました
私の街でも、よく立ち寄っていた角の古い文房具やさんがそれでしたよ
最後の方で、薄いボール紙の箱一杯のいろいろをもらいました 
色の褪せたリボンで括られたご招待状の紙束とか、鄙びた優しいものが入っていて
時々出して楽しんでいる その私もいつか消えていく 笑

下のトラッテリアの写真、フェルメールの仕事をする人の絵を
思い出させてくれました 右側のオレンジは壁の色ですか? 素敵な写真ですね 

2012/03/24 (Sat) 12:53 | スプーン #EQkw1b1A | URL | 編集

こんにちは。

via Oberdanですって!
何度も歩いた通りです・・・もう2年も過ぎると記憶も曖昧になるのですね・・・
私のイメージだと、もっと雑然としていたような気がしたのですが・・・

そろそろ、もう一度ボローニャに行かなければなりませんね。
そうしないと、私の記憶の中の過去のボローニャと今のボローニャが重ならなくなりそうです。

yspringmindさんの写真とブログが、私の中で過去と現在をつなぐ時空の架け橋になっているようです。

2012/03/24 (Sat) 14:08 | Via Valdossola #P6wRKz4w | URL | 編集
Re: タイトルなし

スプーンさん、こんにちは。勿論新しいものも好きなんですが、古いものや昔のものや人に思い入れの多い私にとっては、そんな店が気になります。
よく立ち寄っていた角の古い文房具やさんから箱一杯の色んなものを貰って、色のあせたリボンに括られた招待状とか優しいものを時々取り出すスプーンさんの姿を思い浮かべました。スプーンさんて優しい素敵な人なのだろうと想像しながら。
ところでとオレンジ色の壁ですがボローニャでは実に一般的な色なのです。光の都合上オレンジに見えますが、実はもう少し赤に違いのですよ。

2012/03/24 (Sat) 22:12 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

Via Valdossolaさん、そうでしょう、何度も歩いていると察しました。だって通っていた所にとても近いですものね。言われてみればvia Oberdanは確かに少々雑然としていますね。でも時々ぽっかりとさっぱりした場所もあるものです。見る角度にもよるのかもしれませんね。
もう2年も過ぎますか? それではそろそろボローニャに戻ってみてはいかがでしょうか。きっとお友達も喜びますよ。でもその際には今度こそ声を掛けてくださいね。一緒に美味しいワインでも一杯引っ掛けようではありませんか。

2012/03/24 (Sat) 22:16 | yspringmind #- | URL | 編集

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