散策とチョコレート

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今週二回目の昼間の散策。こんな幸運はそんなに滅多にあるものではない。これでストレスが溜まっているとか不平不満を言うならば感謝が足らないというものだ。勿論、誰にだって不満のひとつくらいあるというものだけど、心が疲れることだって時にはあるけれど、昼間の散策はさりげない形で私達を元気にしてくれる。少なくとも私には大きな効果あり、なのだ。今週末は旧市街で月に一度の骨董品市のある週なので、Piazza Santo Stefano に沢山の人が集まり、それを取り囲む界隈も大変な賑わいであった。店主と客のやり取りに耳を傾けると、大切な人へのクリスマスの贈り物を探しているとか、自分への一年のご褒美を探しているとか、そんな話が聞えてくる。骨董品市の真ん中の店で絵を見つけた。20号ほどの大きさで、それほど古いものではなくて、有名な画家のものでもない。60年代半ばに描かれたものであること以外は殆ど何も分からないけれど、とてもよい風景画だった。店主にこの絵が何処から来たものなのかを聞き出そうとしている横から、大柄の男性が割り込んできて其の絵を買うと言った。値段を訊きもせずに。えっ、と私は彼を見上げるとボルサリーノ風の品の良い帽子を被った髭の紳士だった。私は自分が気に入った絵を横から持ち去られたような気がして一瞬腹を立てたが、よく考えたら自分が気に入った絵を同じように評価して自分の手元に置こうと思う人が此処に居ることが嬉しくも思えて、多分私は大変複雑な表情をしていたと思う。紳士は外套の内ポケットから膨らんだ財布を取り出すと随分の紙幣を抜き取って店主に渡し、それと引き換えに絵を受け取ると脇に抱えて去っていった。売れましたね。私がそう言うと、店主もまた嬉しさを隠せぬが驚いた表情で頷きながら言った。いやあ、売れました。私はもうあの絵の由来を訊く気になれず、店主に簡単な挨拶をして骨董品市を後にした。少々がっかりしている自分を元気付けるために、いつものカフェに立ち寄った。店内は思いのほか空いていた。店の人と話すことが出来たほどだ。カッフェをひとつ。そう注文する私に、カウンターの中の青年が注文を繰り返す。美味しいカッフェをひとつ。すると其の向うにいるもう一人の青年が私のカッフェを淹れながら、飛び切り美味しいカッフェをひとつと言った。それだから私は言ったのだ、此処のが一番美味しいと思っていることを。すると店の人達が一斉に振り向いて嬉しいなあ、と言わんばかりの笑顔をみせてくれた。それを見ていた私の横の常連らしい女性客が、あら私だってそう思っているから何時も此処に来るのよ、口を尖らせて言ったので、ああ、そうだね、と皆で笑った。私は其の飛び切り美味しいカッフェを飲み干してまた歩き出した。クリスマスを前に割引をする店が多くなった。10年前には無かったことだ。初めてブダペストへ行った10年前のあの冬、クリスマスまで後20日と言うのに街中が大セールをしているので驚いたものだ。すると友人が教えてくれた、豊かな人もそうでない人もクリスマスプレゼントを買えるようにとハンガリーではクリスマス前にセールをするのだと。私はそれを聞いて深く感動したものだ。とても人間的で、温かみがあると。10年経ってイタリアでもそれが始まった。もっともイタリアの場合は現在の経済危機を乗り越える為の、兎に角少しでも売らなくては、というのが大きな理由に違いないけれど、この国で生活する私達にとっては少なくとも有難いことなのである。随分歩いた。午後も3時半になった頃、ある店に向った。ROCCATI CIOCCOLATO、チョコレート屋さんだ。何故こんなに混んでいるのだろうと思いながら、私はいつも前を素通りしていたのだ。最近無性に美味しいチョコレートを食べたくなって、それで遂にこの店に入ることに決めたのだ。店はまだ閉まっていた。午後の開店時間の2分前だったが、店の前には驚くほどの人が店の扉が開くのを待っていた。きっと美味しいに違いない。そう確信した。さて扉が開くと広い店内はあっという間に一杯になった。親切な店員さんに色々質問しながら12粒のチョコレートを選んだ。小さな袋に入れてもらうとそれを鞄の中にしまった。96番のバスで家に帰ってきた。散策は楽しいけれど、冬はやっぱり寒いねえ、と呟きながらコートやら靴やらを片付けると、先ほどの袋を神妙な気持ちで開けた。ひとつ。口に放り込むと、うーん。思わず声が漏れて別の部屋に居た相棒が飛んできた。それでは相棒にもひとつ。うーん。相棒も唸った。思った通りだった。歩きすぎた足の疲れも、すっかり冷えた指先や頬のこともすっかり忘れて、急に元気になった。美味しいひと粒のチョコレートは自分へのご褒美みたいなものである。この冬はあの店に足繁く通うことになりそうな予感。またひとつ贔屓の店が増えた。今日の散策の収穫だ。


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