クリスマスを前に

Immagine 106 (Small)


今日から本格的な冬になるという言葉が納得できるような鼠色の空のボローニャ。鼠色というよりも朝から酷い霧に煙っていて空すら見えなかった。窓を開けると湿度をたっぷり含んだ空気が勢いよく家の中に流れ込んできて、ほうらね、ボローニャの冬って感じがするでしょう? と耳元で囁かれたような気がした。氷のように冷たい。雪が降り出しても不思議ではない日。昨日の夕方、私の職場の隣の会社の人が挨拶に来た。とても気の良い礼儀正しい真面目な性格の青年だ。聞くところによると会社を閉めることになったという。隣にまで不況の風が迫ってきたのを知って、私は就業時間までの1時間ほどを重い気持ちで過ごした。彼はこれからどうするのだろう。家族でも親戚でも友達でもないけれど、若い青年の今後が気になって仕方なかった。ボローニャには幾つかの老舗なる会社があって、其のひとつにBRUNO MAGLIがある。私がアメリカで暮らしていた頃、同じ職場の女性がお洒落に大変関心のある人で給料日を迎えると何か新しい素敵なものを手に入れては見せてくれたものだ。其の彼女のお気に入りがBRUNO MAGLIの靴だった。上質の革を使っていてね、足にぴったりきて歩きやすいの。そういって彼女は嬉しそうに靴を見せてくれた。そう言われてみれば街の中心の広場の前に大きなデパートメントストアがあって、その横に小さな店があったのだ。高級な靴を置く店と思いながら前を通っていた、其れがBRUNO MAGLIだった。彼女の小さな足を美しく包む其の靴を眺めながら、成る程これは歩きやすそうだ、と思った。しかも歩くだけの靴ではなく美しさも備わっていて、見れば見るほど感心な靴だった。ある日彼女と帰りが一緒になった。真っ直ぐ帰るつもりだったが好奇心から彼女のウィンドウショッピングに同行することになった。初めはアイマグニン。今は無くなってしまった其の店だが、昔からお洒落な人達が足繁く通う店だった。彼女はこの店を大変贔屓にしていたらしく、沢山の礼儀正しい店員に名前を覚えられているようだった。彼女のセンスはこんな風にして育まれていったのかと思うような、アイマグニンは其の隣の大きなデパートメントストアとはちょっと違った空気が漂っていた。そうして店を出ると其の足で靴屋へ行った。BRUNO MAGLIだった。若かった私には全般的に少し大人すぎるスタイルだったが、確かに上質の柔らかい革には心を惹かれるものがあった。私は見るだけと言いながら実はひとつ大変気にいったのを見つけていて、何日も何週間も考えあぐねたうえで店に戻って其れを購入した。それが私とBRUNO MAGLIの靴、そしてイタリアのお洒落との出会いであった。そうしてボローニャに引っ越してきたらBRUNO MAGLIの本社工場があった。何という縁なのかしらと思いながら、しかし私には高級すぎて、遠くから眺めるだけの存在といって良かった。6年前から其の横を毎朝毎夕通って通勤するようになった。私達は本当に縁があるのかもしれないわね、と、何時の日か親しみすら感じるようになった。ところが随分前の新聞にあと数年で閉まるかもしれないと記されているのを見つけて驚いた。いつの間にか同族経営から外資との共同経営になっているらしく、今までどおりの経営ではやっていけないよ、と言うことらしかった。何事も時代と共に移り変わっていくものだけど寂しいような気がする。そして此処で働く人達のこと。他人事と言って知らん振りできないような。喜び溢れるクリスマスを前に私にしては珍しくそんなことを真剣に考えてみた。


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コメント

こんにちは。
BRUNO MAGLIの靴のお話で、ワタクシも懐かしく、また楽しく拝見しました。ワタクシがこの靴を知ったのは友人の貸してくれたアメリカの女性探偵の本で、ヒロインの好きなものに挙げられていたのがこれでした。
それから雑誌によく写真が出たりして、日本でもメジャーになったBRUNO MAGLI。
クラシックな雰囲気の靴はすてきで、購入したローファーなどワタクシも大事に長いこと履いています。
ボローニャに行くことがあったらぜひお買いものを、と思っていたのに・・・・。
最近、デザインが変わっていたのはそういうことだったのですか。残念。

2011/12/06 (Tue) 03:47 | 大庭綺有 #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

大庭綺有さん、こんにちは。確かにBRUNO MAGLIのラインは近年変化しつつありますね。勿論此処だけでなく、例えばFratelli Rossetti などもそうなのですが、しかしBRUNO MAGLIの変化の理由は共同経営者によるものだと察します。縫製が良いので丁寧に履けばとても長持ちする飽きのこない靴、それが此処の人気の秘密なのですが、そしてそれボローニャのブランドと思うと益々愛着が湧くのですが、何時か此処から姿を消してしまうようです。残念だけど時代の流れとはこういうものなのかもしれませんね。

2011/12/06 (Tue) 23:18 | yspringmind #- | URL | 編集

おおっ、Fratelli Rossetti もお好きですか?
ここも変わっていくのかなぁ。残念です。

2011/12/08 (Thu) 06:46 | 大庭綺有 #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

大庭綺有さん、そうなんですよ。でも最近此処は驚くほど高いので見るだけにしています。此処も変化しつつありますよー。残念ながら。時代の流れには逆らえないってことでしょうか。

2011/12/08 (Thu) 23:25 | yspringmind #- | URL | 編集

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