Immagine 109 (Small)


いつも行くバールの横にある小さな店。ちょっと面白い家具や小物、それからカーテンやソファを張る生地が狭い店内によく工夫されて置かれている。アンジェロというのが店主で、私が相棒を通じて彼と知り合ったのは2年ほど前のことだ。店が出来たのはそれよりも1年前のことで、もしかしたらバールで隣り合わせになっていたかもしれないが、彼の顔を見た記憶は全くなかった。私が相棒と彼の店を訪ねたのは、彼の愛犬が子犬を産んだと知ったからだった。とても可愛いから見に行ってごらんとバールで働く女の子に促されて。ところが子犬は一匹も居なかった。様々な人達に喜んで引き取られていったとのことだった。産後で疲れた母犬だけが店の隅っこに佇んでいて、子犬がいなくなった寂しさをひとりで耐えているように見えた。そんな母犬をアンジェロが優しく撫でて可愛がる様子が彼の人柄をそのまま表しているように感じられて私は嬉しくなった。そうか、これが噂のアンジェロなのか、と。今日、相棒とバールで待ち合わせをした。家に帰る前にバールで何か飲もうと誘われたからだった。私はバスを降りて道を渡り、其の足でバールに入っていこうとしたら何処からか私の名前を呼ぶ声が聞えた。それも二種類の声だった。見るとアンジェロと相棒が店の前に立っていた。寒いからと言って私達は彼の店の中に入った。相変わらず面白いものが沢山あった。其の中でも気に入ったのが壁紙だった。薄い抹茶色をベースにカラシ色の60年代の柄が施されたもの。それから銀色に近いグレーをベースに幾種類もの大輪の花が描かれたもの。まるでヴォーグ紙に出てきそうな壁であった。素敵ねえ。と心から褒めると彼は大層喜んで、僕と君は趣味が合いそうだと言った。アンジェロと趣味が合うのは嬉しいことだ。勿論私は彼ほどセンスは良くないにしても、彼のような人と小さな共通点があることを嬉しくないはずがない。私達は壁紙の模様から色、床のタイルの選び方や天井の色、周囲に置かれた家具やソファの生地へと話が広がり気がつくと閉店時間が過ぎていた。ああ、楽しかった、と私達は立ち上がり挨拶をして店を出ると隣のバールで食前酒を頂いた。いつの間にか白い天井と壁に慣れてしまった私は久し振りに見た美しい壁紙や天井の色で頭が一杯で、実を言うとその間誰と何を話したか全く覚えていない。久し振りにどきどきしてわくわくした。色。そうだ、色が私を刺激したのだ。ひょっとしたら私は色の世界を恋しがっているのかもしれない。そんなことを考えながら冷えた食前酒をゆっくりと喉に流し込んだ。


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