散策・ブダペスト

Immagine 127 (Small)


予定していた時間より早く目が覚めたのは私がこの町に来れたことにひどく興奮している証拠だった。ホテルの窓から外を眺めると突き抜けるような青空。前日の雨が塵を一掃してくれたに違いなかった。朝食を簡単に済ませて外に出た。平日の朝のブダペストの様子を観察しようと思って。ホテルが在る辺りは所謂官庁界隈で整然としていた。私が良く知る普段着のブダペストとは少し異なる。しかしそれも数本道を行くと見慣れた様子が横たわっていて、私はほっと胸を撫で下ろしたのだった。私の好きなのはこの見慣れた普段着の様子なのだ。小さな薬屋さん。小さなグロサリーストア。小さなワイン屋さん。それらの店の前で足を止めては外からそっと眺める。少し先の角の小さな骨董品屋さんの、窓辺に飾ってあった絵画が気に入ったので中に入ろうとしたが閉まっていた。時計は9時を指していた。何時に開くのだろうと開店時間を表示した紙切れを店のあちこちに探してみたが、無い。多分店主の気の向いた時間に開けるのだろう。そうしているうちに店の右隣の建物の入り口から自転車を担いで中に入ろうとしている青年を見つけた。この店は何時に開くか知っているかと訊く私に、それは難しい質問だ、決まった時間に開かないのだ、と首を振りながら青年は中に入っていった。やはりそうであったか。そういう店はどの国にも多少なりとも存在するのである。それで私は諦めてまた歩き出した。今回の滞在中には戻って来れないかもしれないが、来夏があるさ、と。そうだ、また戻ってくれば良い。来夏もあの窓辺にあの絵画は置かれているに違いない。ブダペストにしてもボローニャにしても面白いのは裏道だ。普通の人々が普通に暮らす様子、普通の人々が通う小さな店は何度眺めても飽き足らない。だから面白いことに広場に行くことは少なくて、其の存在を忘れてしまうこともある。私にとって英雄広場がそうだった。午後のお茶時に友人に会った。昨夜の友人を介して知り合った青年だ。前回会う時間をもてなくて酷くがっかりさせてしまったから、今回は必ずとずっと心に決めていたのだ。それで其の青年が提案したのだ、英雄広場へ行ってごらん、と。私が英雄広場へ行ったのは随分前のことだ。特別何かを感じられる場所ではなかった。けれども初めてブダペストを訪れた連れが居たので、確かに英雄広場は一度くらい行っておいた方がよいと思い、青年と別れた後に英雄広場へと向った。地下鉄の階段を上りきって地上に出ると、大通りの向こう側に英雄広場があった。晩秋の澄んだ空気の中で青磁色の英雄達が胸を張って並んでいる様子は特に感動するものではなかったが、そんな中で私は見つけた。広場の中央に佇む、英雄達の足元に腰を下ろす学生達の姿。宿題でもしているかのようであった。何が良くて此処を選んだか知らないが、新鮮な眺めであった。広場を取り囲む英雄達にカメラを向ける旅行者達を他所に、私は気付かれないようにそっと彼らにカメラを向けた。短い滞在の中で一番印象に残った場面だった。


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