帰り道に一杯

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そろそろ長袖と思っていると当てが外れて気温が上がる。そんなボローニャの9月。夕方のボローニャの街には様々な装いの人が往来していて、いったい今が何の季節なのか一瞬分からなくなる。袖なしや半袖のシャツの人々は太陽がすっかり高く昇った頃に家を出てきたに違いなく、長袖を着込んだ人々は朝早く出勤なり登校したに違いない。何しろ朝の空気の冷たさといったら。首元が肝心要の私は早くもスカーフぐるぐる巻きスタイルが始まった。また今年もこんな時期になったのかと思う。暑さにすっかり弱くなった私だ。夏が終わって寂しい気もするが、この気候は有難いの一言に尽きる。それから秋はワインが美味い。赤ワイン好きの私にとって秋冬は生活にひとつ楽しみが増える。それは帰り道にエノテカに立ち寄る楽しみで、気分が良い日は仕事帰りにちょっと一杯ということになる。それは小さな自分へのご褒美みたいなもので、普段は手に入れないようなワインを見つけて注文するのだ。ロッソ・ディ・モンタルチーノ はそんなワインのひとつである。このワインにはちょっとした思い出があって、だから私は家で頂くことは殆どない。10年も前、フィレンツェの職場に通っていた頃、とても感じの良い同僚に恵まれた。彼女は大変エネルギッシュで一緒に居ると元気が伝わってくるような人だった。話しているうちに互いにワインが好きと分かって、それでは橋の向うのエノテカにちょっと行ってみようということになったのだ。其処はPonte Vecchio を渡って少し行った左手にあった。小さな店はいつも人が一杯で、私達はやっとカウンターの隅っこに席を確保できた。カウンターの向う端にはアメリカ人旅行者が4人座っていて一本50ユーロもするような高いワインを頂いていた。私達は顔を見合わせて彼らの景気のよさに驚きながら、自分達は懐と相談しながらグラスに赤ワインを注いで貰った。それがロッソ・ディ・モンタルチーノだった。私達は初めて一緒にワインを頂くことに乾杯して、そうして頂いてみると驚くほどまろやかで喉越しの良いワインだった。あれをきっかけに私達は金曜日になるとどちらからとも無く誘い合い、あの店に通うようになった。時々違うワインを試すが私はロッソ・ディ・モンタルチーノと相性が良いようだった。おかわりはしない。いつもグラスに一杯だけ。ワインとつまみを頼んでひとり8ユーロというささやかな金曜日の楽しみだった。その習慣が長く続かなかったのは、彼女がローマに行ってしまったからだった。そのうち私もボローニャに仕事を得てフィレンツェ通いし無くなった。かといって彼女と縁が切れたわけでもない。互いの職場同士に付き合いがあって、時々声を聞くこともあった。クリスマスが近いある日、彼女の会社から重い包みが職場に届いた。中に託されたカードには良いクリスマスをと書かれていて、箱を開けてみたらあの頃私達が好んで頂いたあのワインが入っていた。今でも彼女はあの頃の楽しかった金曜日のことを覚えていたのか、と思わず嬉しくなった。その後彼女はローマを去って暫く東京に居たが、其処から転勤でまた外国へと飛んでいった。彼女の顔を思い浮かべると、何時までも本当にエネルギッシュなんだから、と思わずうふふと笑みが零れてしまう。あれから私は嬉しいことがあると独りでもエノテカに行くようになった。そして気分が特別良い日には、やはりあのワインを選ぶのだ。赤ワインが美味しい季節。彼女も何処かの町で嬉しい日にはワインを楽しんでいるに違いない。


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コメント

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2011/09/27 (Tue) 09:23 | # | | 編集
Re: タイトルなし

鍵コメさん、こんにちは。楽しむ時間を持つことで気持ちに余裕が出来るものです。昔は気持ちに余裕があるから楽しめるのだと思っていましたが、そうとも限らないことを知りました。兎に角涼しい季節はワインが美味しいのです。最近では取って置きのハンガリーの赤ワインをあけて乾杯しましたよ。鍵コメさんもお楽しみくださいね。

2011/09/29 (Thu) 19:14 | yspringmind #- | URL | 編集

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