雪の降る日は思いだす
- 2019/01/30 22:56
- Category: ひとりごと

窓の外は雪。夕方に降り始めた霙が雪になり、まるで冬のようだと思った。1月だから当然冬なのに、改めてそれを教えられたような気がしたのだ。美味しいチョコレートを旧市街に買いに行こうと思っていたのに、そんな訳でまっすぐ家に帰ってきた。それでよかったような気もする。チョコレートが大好きな私は、チョコレート屋さんに入ったらあれもこれも欲しくなってしまうに違いないから。楽しみは先延ばしにしない主義だけど、これに関しては少しでも先に延ばした方が良いような気がするのは気のせいか。
雪の降る日は思いだす。ストーブを炊いている暖かい居間に母とふたりで居た日のこと。午後も3時を回った頃、一向に止む気配の無い雪を横目に、アメリカへ行くことにしたと母に伝えた。準備を始めるにあたっての下調べは既にしてあって、後は行動を起こすだけだった。母は昨日までまだ若すぎるからと言って私を傍に置きたがったのに、その日はもう若くないのだからと言った。結婚しなさいと遠回しに言ったのが分かった。しかし、私の心が既に決まっていることを知ると、案外簡単に同意した。母も若い頃アメリカへ行きたかったこと。けれども状況が許さず、言いだすことすらできなかったこと。そんなことをポツリポツリと話してくれた。あなたが決めたこと。自力で進みなさいと言ってくれた。私は自分の力を信じていたし、自分次第で何でもできると信じていたから、母の言葉が嬉しく、私の背中をぐいと押してくれたように思えた。何年も後に、あの頃の私は本当に若くて考えなしだったことに気付くのだけど。自力で何でもできるなんて。本当は、私を取り囲む人達が居たからこそ前に進むことが出来ただけなのに。あの雪の日のことを、母は今も覚えているだろうか。それとも私が覚えているだけで、母にとってはそれほど意味のある日ではないのかもしれない。あれから28年経った。私も随分と大きな大人になり、母は老いであの頃の面影はあまりない。夏に母の肩を抱いた時、こんなに小さくなった、と思った。雪を眺めていると、私が母のもとを飛び出すと言いだしたあの日のことを思いだし、飛び出して自分の道を歩んでよかったと思う反面、母は寂しかったのではないかと心を痛める。今頃気がついても遅いけれど。時間を戻すことはできないけれど。
今夜はとっておきのワインの栓を抜いた。雪を眺めながら赤ワイン。そんな晩もいい。
