雪の降る日は思いだす

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窓の外は雪。夕方に降り始めた霙が雪になり、まるで冬のようだと思った。1月だから当然冬なのに、改めてそれを教えられたような気がしたのだ。美味しいチョコレートを旧市街に買いに行こうと思っていたのに、そんな訳でまっすぐ家に帰ってきた。それでよかったような気もする。チョコレートが大好きな私は、チョコレート屋さんに入ったらあれもこれも欲しくなってしまうに違いないから。楽しみは先延ばしにしない主義だけど、これに関しては少しでも先に延ばした方が良いような気がするのは気のせいか。

雪の降る日は思いだす。ストーブを炊いている暖かい居間に母とふたりで居た日のこと。午後も3時を回った頃、一向に止む気配の無い雪を横目に、アメリカへ行くことにしたと母に伝えた。準備を始めるにあたっての下調べは既にしてあって、後は行動を起こすだけだった。母は昨日までまだ若すぎるからと言って私を傍に置きたがったのに、その日はもう若くないのだからと言った。結婚しなさいと遠回しに言ったのが分かった。しかし、私の心が既に決まっていることを知ると、案外簡単に同意した。母も若い頃アメリカへ行きたかったこと。けれども状況が許さず、言いだすことすらできなかったこと。そんなことをポツリポツリと話してくれた。あなたが決めたこと。自力で進みなさいと言ってくれた。私は自分の力を信じていたし、自分次第で何でもできると信じていたから、母の言葉が嬉しく、私の背中をぐいと押してくれたように思えた。何年も後に、あの頃の私は本当に若くて考えなしだったことに気付くのだけど。自力で何でもできるなんて。本当は、私を取り囲む人達が居たからこそ前に進むことが出来ただけなのに。あの雪の日のことを、母は今も覚えているだろうか。それとも私が覚えているだけで、母にとってはそれほど意味のある日ではないのかもしれない。あれから28年経った。私も随分と大きな大人になり、母は老いであの頃の面影はあまりない。夏に母の肩を抱いた時、こんなに小さくなった、と思った。雪を眺めていると、私が母のもとを飛び出すと言いだしたあの日のことを思いだし、飛び出して自分の道を歩んでよかったと思う反面、母は寂しかったのではないかと心を痛める。今頃気がついても遅いけれど。時間を戻すことはできないけれど。

今夜はとっておきのワインの栓を抜いた。雪を眺めながら赤ワイン。そんな晩もいい。




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彼女たちのこと

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冬真っ只中の1月は、時としてどうしようもなくやりきれない気分になる。何時もならば大抵のことは聞き流して忘れる私も、1月のこの時期だけはうまくいかない。ふーん、それで?そんな風に流せたらどんなに良いだろう。今日、夕方に旧市街へ行ったのは、ちょっと立ち飲みワインでも、と思ったからだった。昨夜の熱は引いたし、昼間の頭痛も少しは和らいだし。そしてフランス屋もそろそろ新しい名前で新装開店してもよい頃だし。そう思って職場からバスで旧市街へ向かったのに、店はまだ内装工事中で閉まっていた。店内に人が居る気配在り。恐らく店主夫婦と内装業者があれこれやっているのだろう。ひょっとしたら2月1日の金曜日に店を開けるのかもしれない。だとしたらもう少しの辛抱だ。そんなことを思いながら前を通り過ぎ、路地を歩いて角の小さなパン屋へ行ったら、あまりの混雑に辟易して開けた扉を閉め、食料品市場界隈を通過して、塔の前に伸びる大通りからバスに乗って帰ろうと思ったところで、ふと思いついて百貨店もどきの店に入った。彼女は居るだろうか、と思って。

店の地上階の一角に私の好きなヘアケア製品やスキンケア製品を置く店がある。アメリカに居る頃に使っていたが、イタリアに来ることになると手の届かぬ存在となった。フィレンツェに通っていた頃は、街の中心の百貨店なる店で購入することが可能だった。時々奮発して手に入れていた。其れもフィレンツェに通うのを辞めると、再び手の届かぬ存在となり、そのうちそんなものがあったことを忘れてしまった頃、ボローニャの此の百貨店もどきの中に小さな店が出来たのを知った。暫く遠くから見守っていた。それは現在使っているものに満足していたからだった。それに私はもう、アメリカで使っていたものに執着し無くなっていたからだ。2年半くらい前だっただろうか。店の前を通りかかったら、いい匂いがした。足を止めて匂いの主を探していたら、すらりと背の高い、素敵な女性に声を掛けられた。何かお見せしましょうか。そう言われて、この匂いのことを訪ねると、彼女はいい感じの笑顔で此れだと言って見せてくれた。シャンプーだった。私が使っていた頃と配合が替わったのだろう、それはどうしようもなく私好みで、そんな匂いから彼女と話に花が咲いた。彼女は製品知識があって色んなことを教えてくれた。今日は買うつもりはないのだと正直に言う私に、いいのよ、兎に角サンプルをあげるから、と言って紙袋に幾つものサンプルを入れてくれた。それが彼女との出会い。それ以来、私はここで時々買い物をするようになり、時々立ち話をするようになった。彼女と私の共通は、同じ店で髪の手入れをしていること。同じ人に髪を切って貰っていると知った時は、ちょっと嬉しかった。彼女との小さな共通点。ところが最近ちょっと気が付いたことがあった。あれ? そうかな。でも。しかし友人でもない店の人に、立ち入ったことは聞けなかった。さて、今日彼女のところに立ち寄ったのは、シャンプーがもう直ぐなくなりそうだったからだ。別に今日でなくても構わなかったが、割り切れない気分の今日みたいな日は、彼女のような素敵な人と話をしたらいいかもしれない、と思ったのだ。彼女は居た。いつものようにあれこれ話をしていたら、彼女が不意に髪を切ってくれる人の話を始めた。それで訊いてみたのだ。もしかしてあなた達・・・。すると、あら、知らなかったの? と彼女が言うではないか。知らなかったわよ。あなた達には幾つもの小さな共通点があって不思議な偶然もあるものだと思っていたけれど。目を丸くしてそう言う私に、彼女はからからと楽しそうな笑い声を立て、秘密なんかじゃない、てっきり彼が話をして知っているのかと思っていたと言ってもう一度楽しそうに笑った。全く素敵だと思った。髪を切ってくれる彼も彼女も。人に媚びない、さらりとした性格の人達。思いがけぬ発見に、何だか楽しくなった。

今日の夕方は明るくてご機嫌だったが、明日は雪が降るらしい。水曜日に雪。まるで映画のタイトルのようで素敵だけれど、雪はやはり降らぬほうがいい。ひとりくらいそんな風に願う人が居ても、いいじゃないか。




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魅力

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昼間、テレビをつけたらヴェネツィアが映し出された。美しいヴェネツィア。特に秋冬の美しさと言ったらない。今年は2月中旬から3月初旬まで謝肉祭で大混雑になるから、それが終わったら、また足を延ばしたいと思った。その頃には陽が伸びて、日差しも強くなって、運河の水面がきらきら光って美しいことだろう。テレビの画面を眺めながら、ヴェネツィアにまた行こう、と相棒に話しかけて、私達はハッと顔を曇らせた。

昨秋、相棒とヴェネツィアに行ったのが記憶に新しい。実を言えば忘れかけていたが、クリスマス前日にヴェネツィア市からスピード違反の罰金通告書が届いた為に記憶が蘇った次第である。5キロオーバーだそうだ。相棒などは5キロくらいで罰金を科せるヴェネツィア市に憤慨し、もう二度と行くまいと宣言したものである。私にしても折角楽しかった日帰り旅行にケチがついたような気がしてがっかりしたが、こういうものはさっさと払うのが一番、と即時に罰金を払って忘れることにした。それにしても、45ユーロという微妙な金額。ボローニャのスピード違反は大抵80ユーロを下らない。たったの5キロオーバーで罰金を科せることに多少なりの罪悪感を感じたのだろうか。何にしてもスピード違反はいけないよ、急ぐ必要などないのだからね、と言って話が終わった。クリスマス前日の話である。

意外なことに相棒は、久しぶりに見たヴェネツィアの映像に心を奪われ、近いうちにまた行こうと答えた。やはりヴェネツィアの魅力は、罰金ごときで諦められるようなものではないらしい。それに食事処の魅力。ヴェネツィアは高いからと言って何時もバールでパニーノの立ち食いしか考えたことのない相棒が、また行こうと言ったほど魅力的な店。これもまた、罰金ごときで諦められぬほどの大きな魅力なのだろう。ヴェネツィア、ヴェネツィア。少し先の楽しみが出来た。




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いつもと違う色

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昨夜の疲れが嘘のように今日は気持ちの良い目覚めだった。それに数日続いていた頭痛も消えた。こんな土曜日に家に籠る手はない、と昼前に家を出た。旧市街へ行こうと思って。風が冷たいが空は青い。暖かいコートに身を包んできたから寒くはない。

昔、若かった頃、私は厚着が苦手だった。身に着けている枚数が少なければ少ないほど良かった。それから厚みのあるセーターが嫌いだった。其れもイタリアに暮らすようになると、そうも言っていられなくなった。私が暮らしていたアメリカの街や、育った日本の街とは比較しようもないほど寒い冬のあるボローニャ。もっと着込まなくてはいけないと私を諭したのは相棒の友人のフランカだった。さもなければボローニャの冬に勝てないからと。そんな話を初めて誰かにしたのは、私がフィレンツェのオフィスに通っていた頃のことだ。するとそれを聞いていた知人が語り始めた。私は贅沢者と呼ばれても仕方がないかもしれないけれど、冬は奮発してカシミヤセーターと決めているの。柔らかくて軽くて肩が凝らないうえに、とても暖かい。いいじゃない。そうすることで冬を快適に過ごせるなら。そう思わない? それを聞いていた別の知人が、暖かいかもしれないけれど、やはり贅沢品には違わない、あなたは贅沢者だ、と言った。私には分から無かった。どちらが正しいかなんて。ただ、本人が良ければそれで良いのではないだろうか。確かそんなことを言ったように覚えている。あの頃の私は今よりずいぶん若く元気だったから自分がカシミヤセーターに手を出すことはないだろう、何しろ高価なものだから、と思っていた。知人を贅沢者だとは思わなかったが、私にとっては確かにカシミヤセーターは贅沢品の部類に入っていたからだ。もう17年も前のこと。今よりずいぶん若く、体の隅々までにエネルギーが行き渡っていたかのように元気だった私には、不要だったのかもしれない。あれから何年も経って、偶然カシミヤのセーターを手に入れた。行きつけの店の店主が、これはあなたのサイズだと思うから試してみるといいと薦めてくれたのがきっかけだ。試着してみると、まあ、何と軽いこと。なのに暖かくて、それになんて柔らかい。アレルギーを持つ肌に触れても不快を感じない、それも魅力的だったが、兎に角軽い、それが何よりも嬉しかった。冬のサルディの時期で割引されていたのを更に少し引いてくれることで、初めて私の手にカシミヤセーターが転がり込むことになった。喜ぶ私に店主が言った。若い頃はどんなものを身に着けてもいいと思うけれど、ある程度の年齢になったら質の良いものを身に着けるものだ。それは贅沢ではなくて、年齢と共に必要なもの、そう思えばいい。店主にそう言われて、成程、私は店主の言うある程度の年齢の女性になったのだ、と悟ったものだった。しかしそれは決して残念なことではなく、寧ろ、今まで自分には贅沢だと思っていたものの解禁に思えて、楽しい気分になったものだった。店主が薦めてくれたあの一枚のカシミヤセーターから、私は寒い時期になるとカシミヤが手放せなくなった。高価なものだから勿論冬のサルディを待って。ところでセーターを持ち込むたびにクリーニング屋の女主人が、あなたにはファンタジアが無い、何故もこう同じ色のものばかり身に着けているのだ、と言う。良く考えてみたら、成程、同じ色ばかり持っていることに今更ながら気が付いた。だから、という訳ではないけれど、そして、この冬はセーターを購入する予定はさらさら無かったけれど、街中の気に入りの店に入った。ちょっと見せてほしいの、いつもと違う色合いのセーター。そう言うと、直ぐに違う色合いのものが出てきた。どうやら店の人も私がいつも同じような色ばかり着ていることに気付いていたらしい。手渡されたセーターを試着しながら笑いがこみ上げてきた。なんだ、みんな気がついていたのか、嫌になっちゃうなあ。さて、いつもと違う色のセーター。こんなことでこうも変わるのかと驚くほど、気分がいい。あら、いいわね。店の人にそう言われて、予定外の買い物をした。私には必要だった一枚。ということにしよう。

窓の外は薔薇色。随分遅くなった日没時間にあわせるようにして空が薔薇色に染まった。こんな美しい薔薇色の空は久しぶりだ。それとも私の気持ちがぎゅうぎゅう過ぎて気が付かなかっただけなのかもしれない。どちらにしろ良い徴。これは良い徴なのだ。




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君が好きだろうと思って

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昨晩雪が降った。どうりで寒いと思った。降った雪はあっという間にとけてしまったけれど、雪で塵や埃が清められたのだろう、空気が綺麗で美味しかった。それに昨日の雪雲は何処ぞへ追いやられたらしく、午後には空が明るくなった。だからなのか、夕方になっても空がほんのり明るくて、確実に日が伸びていることを実感し、口笛のひとつも吹きたくなった。ご機嫌な口笛。それともスキップでもしようか。春なんて言葉はまだ使えないほど寒いけれど、しかし確実に春に歩み寄っているのだ。

ところで、昨日知人から母親手製の美味しい物の御裾分けがあった。私へのお礼とのことだったが、一体私はどんな良いことをしたのだろう。兎に角、君が好きだろうと思って、とのことだった。御裾分け品はいわゆる保存食のような物。この夏捥ぎたてトマトを夏の陽の下で干して、それを自家製オリーブオイルに漬けたものだった。オリーブオイルの中には大蒜とバジリコ。夏から数えて5か月ほど経ったから、良い具合に味がしみ込んだに違いなかった。蓋を開けたらぷーんと堪らなくいい匂い。既に夕食を終えたのに味見と言わんばかりにひとつ摘み上げたら、それが大変美味しくて、片付けたテーブルにもう一度着いてパンと一緒に思い切り食べた。美味しいねえ。美味しいねえ。相棒と私は一体幾度同じ言葉を発しただろうか。普段は腹6分目しか食べない私も、昨夜はたらふく食べた。夏の日射しの味がして、心まで温かくなるようだった。こんな素敵なものを分けてくれた知人に乾杯。知人の素敵な思いやりに乾杯。

明日はどんな日になるだろう。どんな日でも良いから、楽しい気持ちで過ごしたいものだ。優しい気持ちで過ごしたいものだ。そして素敵な週末を迎えようではないか。




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