また帰ってくる。

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日本滞在終了。あっという間だったけれど、至極満足。やはり私は幸せ者だ。





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沢井へ行こう

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沢井と言う名の駅を、いったいどれ程の人が知っているだろうか。沢井は青梅市に属する。東京のオアシスと言っても過言ではないに違いない奥多摩の、青梅線の小さな駅だ。昔は無人駅だった。上りも下りも本数が極端に少なくて、一旦電車を逃すと随分と待たねばならなかった。その記憶は私がまだ小さな子供だった頃から20歳くらいまでに跨っていて、どれも愉しくて懐かしい思い出。小さな沢井の駅から坂を下りていくと多摩川が大きく横たわっていた。河の水は冷たくて、その澄んだ水は視覚的に涼しげだったが、降るような蝉の声で涼しさも何もあったものではなかった。橋を渡った右手上には小さな鐘つき堂。そして急な坂道が続いて、ようやく舗装された車道に辿り着くころには玉のような汗をかき、夏に、蝉の声に、急な坂道にひたすら文句を言ったものだ。

そんな沢井駅を目指そうと言い出したのは姉だった。姉もまた、この駅に深い思い出を持っていた。幼い頃、私と姉はセットだったから。姉は嫌がっていたかもしれないけれど、私はそんな姉とのセットを子供心に喜んでいたのだけど。しかし姉が此処に行こうと思いついたのは、日光ほど遠くなく、東京にして緑があり、綺麗な空気があり、良い気分転換になるのではないかと思ったからだったらしい。その証拠に、私が歓喜し、懐かしいと言ったとき、姉は、ああ、そうか、子供の頃は夏になると行ったね、と今思い出したかのように呟いた。
拝島駅から奥多摩駅までを走る青梅線を私は間違って記憶していたらしい。何か寂れた路線。あまり使う人などいない。そんな風に思い込んでいたようだが、実際はそんなこともなく、寂れた様子も無ければ、拝島駅からの幾つかの駅は住宅地と見えて、利用者がとても多い。東京だけれど東京じゃない。あの喧騒も、スモッグも無い、耳を澄ませば鳥の声さえ聞こえた。
沢井駅にはふたりの駅員がいた。今も無人なのではないかと思っていた。沢井駅には、ずっと無人の、静かな駅でいて欲しかった。随分多くの人がこの駅で降りた。多くの人は多摩川へ。一握りの人は沢乃井と言う酒蔵に流れて行き、私と姉はふらふらと、気の向くままに歩き始めた。川沿いの遊歩道は足元が悪く、私は幾度も樹の根っこなどに躓いて姉を心配させた。昔から少しも変わっていない。姉はしっかり者。私は周囲の人達を心配させてばかりいた。水の音。木の枝と葉が風に揺れる音。一時も休みことなく鳴き続ける蝉。時々すれ違う人々の表情がゆったりしているのを確認しながら、自然の素晴らしさを感じた。大汗をかいたけれど、散々歩いて足が痛くなったけれど、散々歩いて大そう疲れたけれど、気持ちがよかった。きっと次の帰省にも、此処を歩くことだろう。

残り少なくなった滞在日数。愉しくて仕方が無いけれど、少しだけボローニャも恋しい。ボローニャは私の家。そして日本が私の原点。ふたつも帰る場所があって、私は幸せ者だ。




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台風一過。運よく直撃をまぬかれた東京とその周辺。台風ってどんなだっただろうかと昨晩考えてみたが、台風が来ると両親が家中の雨戸を閉めたくらいしか思い出せなかった。直撃しなくて良かったのに、何故か肩すかしをくった気分。

浅草の話の続き。扇子屋だの履物屋だの染物屋だの、そうした店先を眺めては喜ぶ私に姉も嬉しそうだったが、姉がふと足を止めた。小さな、風変わりな店先の前で。風変わりに感じたのは、浅草らしくなかったからだ。何か昭和の、レトロな感じ。洋物が日本に流れ込んできた頃の雰囲気を持つ、優しい印象の店だった。店の前の小さな庭のようなところに置かれた女物の衣類を見て、どうやら洋服屋さんであることが分かった。いい感じだったので、中に入ってみることにした。
中にはすらりと背の高い、髪の長い若い女性がいた。感じが良くも悪くもなく、何か話しかけてくるでもなかった。狭い店内にはアンティーク家具が置かれていて、吊るされてあるものは一様に仕立てよく、特に縫製が丁寧で美しかった。素材は自然素材のもので、上質の、肌に気持ちの良いものばかりが使われていた。どれも面白いデザインで、まったく感心だったけど、特に姉はこの店のものが気に入ったようだった。そのうちのひとつは白ともグレーともベージュとも言えそうな、木綿のブラウスだった。長袖の、此れから大活躍しそうなもので、首元にはたっぷりとした生地が添えられていて、それを結ぶと実に華やかで洒落ていた。ブラウスを手にして私たちがあれこれ話をしているところに、それまで別に隠れていたわけではないけれど、ひっそりと椅子に腰をかけていた店主と思われる女性が私たちの前に現れた。年の頃は60歳以上。上背があって、グレーになった髪をふんわりと結っていた。レンガ色のボーダーシャツに、レンガ色のロングスカートを身につけた彼女は、その昔、ひょっとしたら何かの雑誌でモデルなどの仕事をしていたのではないかと思わせるような雰囲気を持っていた。見せる技を知っていると言うのか。兎に角姉は彼女の勧めでブラウスを試着することになった。ブラウスは姉に実に合っていて、姉は大変機嫌が良かった。姉は、着て老けてしまうような服は嫌いだといった。そして、この店は実に趣味が良いと褒めると、彼女がこんな風に言葉を返した。おばさんにならない服、そういう服を置いています。此れには驚いた。姉も私も世間では既におばさんと言われるような年齢なのだが、やはり何時までも若々しくいたい訳で、若すぎない、しかし粋なお洒落を目指している。ぴったりではないか。そう思ったのは姉も同じらしい。色々手に取ってみたけれど、やはりあのブラウスを購入することに決めたようだった。
おばさんと言う言葉はあまり好きではない。多分女性なら誰でもそうだろう。幾つになっても、女性。綺麗でいたい、綺麗にしようと思う気持ちを忘れたくないと思っている。その気持ちって大切。ええ、大切ですね。姉と彼女と私は、そんな言葉を交わし、店を出た。いつか彼女の年齢になった時、私が彼女のようでいられるかどうかは分からない。でも、いつまでも綺麗でいる努力をしたい。彼女のお洒落への姿勢を見習いたいと思った。そういえば彼女は言っていたっけ。店は35年続いていると。もともとは彼女の母親が始めた店なのだろうか。それとも彼女が若くして店を開いたのだろうか。

今夜はうっかりカッフェなどを飲んでしまい、おかげで目が冴えてならない。眠らなくては、と思えば思うほど目が冴える。さあ、困った。明日も朝から楽しい遠足が予定されていると言うのに。




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台風、浅草、煎餅。

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台風が近づいているらしい。雨は降らぬが空には鼠色の分厚い雲が敷き詰められて、もう直ぐだよ、もう直ぐ、と空がいっているようだった。それから蝉。数匹といわず、数十匹、数百匹とも思わせるような蝉の声。頭上から降り落ちてくるような蝉の声は、まるで大雨が降る前にすっかり鳴いてしまわねば、とでも言うようだった。そうしてホテルに帰ってきたところで、雨が降り始めた。予想通りの雨。そう思えば嫌いな雨も、それ程、苦には感じない。

台風が来る前に浅草を訪ねた。帰ってくるたびに浅草へ行こうと姉を誘う私は紛れも無い浅草好きである。何が好きと聞かれても困るのだけど、私が覚えている時代の色や匂いに似たものが今も残っているからかもしれない。それから美。常に変化している日本の美が、此処では多くがそのまま存在する。それが国宝級の伝統芸能などといった手の届かない形ではなく、実に普通の形で、手の届くところに存在するのが良いのかもしれない。人混みが嫌いな私だけれど浅草ならば仕方が無い、と思えるところも浅草が好きな証拠である。姉も浅草が好きなのだろうと想像する。さもなければ私が戻ってくるたびに浅草へ行きたがるのを窘めたに違いないから。
今回の浅草は散策のほかにも楽しみがあった。すき焼きである。美味しいすき焼きをどうしても頂きたくて、姉に連れられて今半へ行った。今半はこの辺りでは名の知れた店らしい。名が知られているにしては狭い質素な入り口だったが、中に足を踏み入れて直ぐに分かった。昔ながらの内装で、昔ながらのやり方で、私は直ぐに店が好きになった。右手奥には畳みの座。幾つもの小さな座卓が並べられていた。12時になったばかりと言うのに空いている座卓はひとつだけ。運よく直ぐに座卓に着くことが出来た。長年畳の生活をしていないせいで、膝を折り曲げて座ることが出来ない。そんな私に店の人が足を崩してお座りなさいよと勧めてくれた。客層を観察してみる。地元の人達、旅行者達、家族連れ、若い女の子たち、若い男女たち。こうした店に若い女の子たちが連れ立ってくることも、若い男女がデートの為に来ることも予想していなかったから、大そう新鮮な印象を得た。こうした人達がすき焼きを求めて店に来るならば大丈夫。これからも日本の美味しいものは受け継がれていくだろう。それにしたって、25年ぶりのすき焼きは、美味しくて愉しくて、兎に角美味しかった。
煎餅を売る店の前を通りながら、子供の頃を先に思い出したのは姉だった。私たちが生まれ途中まで育った街に、煎餅を焼いて売る店があった。この手の店があの時代は別に珍しくもなく、大抵こんな風にして店の奥で作ったり焼いたりして販売したものだ。和菓子屋ならば店の奥で餡を練り餅を捏ねているのが普通だった。豆腐屋は店の奥で豆腐を作っていた。だから煎餅屋は店の奥で煎餅を焼いていても決して珍しいことではなく、むしろ当然と思っていたのだ、あの時代の人達は。煎餅屋は姉のクラスの男の子の家族が営んでいた。姉はこの店が好きだったそうで、頻繁に店に足を運んだらしい。店にいた同級生の両親は、今日は息子はいないんだよ、などと言ったらしいが、ううん、お煎餅を焼くのを見に来たの、と言って驚かせたらしい。へえ、煎餅を焼くのが面白いのかい、と。姉はこうした手をかける作業が昔から好きだった。私は知っている。だから姉が店に煎餅を焼く作業を見に行ったと聞いても、少しも不思議ではなかった。その店のことを私も覚えている。店先に焼いた煎餅を入れた高さの低いガラスケースが並んでいて、此れを何枚、あれを何枚、と袋に入れてもらうのだ。奥は座敷のようになっていて、どっしりと座った大人が、一枚一枚丁寧に、煎餅を焼いていた。いい匂い。小さな子供だった私にはその様子が良く見えなくて、背伸びをしたりつま先立ちしたりして、奥の様子をのぞいたものだ。おかっぱ頭の私は、何処へ行っても小さな子ども扱いで、ほら、おまけだよ、なんて言って、煎餅を一枚手に持たされたりしたものだ。

浅草には私たちの幼い頃の思い出と合い重なるものが沢山詰まっている。それがある限り私はやはり次ぎもまた、浅草に来たくなるだろう。懐かしいからだけじゃない。何か、忘れて貰いたくない日本らしさが、新しいものと上手い具合に共存している。と思うのは私だけなのだろうか。外国人が浅草を好きになるのが、そんな理由であれば良いのに。




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山の日

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山の日。此れについては随分前から耳にしていたが、こうして山の日を迎えてみるとなんともくすぐったい。電話の向こう側にいる相棒に、今日は山の日で祝日だと説明してみるが、説明すればするほど理解しかねるといった感じだ。それでこの件に関しては早々に切り上げて、家の様子を聞いてみれば、びっくりするようなことを言い出した。君が如何に家のことをきちんとしていたか、やっと分かった、と言う。私が家を開けて僅か5日間。仕事と家のこと、そして猫のことをしようと試みたが出来ないそうだ。出来ない。僕には出来ないよ、こんなに沢山のこと。君はどうしてそんなに沢山のことが出来るんだい。と、まあ、僅か5日間家を開けているうちに私は随分な高得点を獲得したらしい。そして猫も、私の不在にがっかりしているらしい。ふふん。君たち、私の存在の有難さにようやく気が付いたようだね、と私は案外上機嫌なのだ。

昨日のこと。姉と銀座を歩いた。銀座には沢山の思い出がある。私たち家族は日曜日になると、よく家族で銀座へ行ったからだ。父も母も東京生まれの東京育ち。ふたりにとって銀座は若い頃の懐かしい場所だったかのかもしれない。昔は銀ぶらと言ったようだ。銀座をぶらつくから銀ぶら。兎に角そんなふたりに連れられて銀座を歩いたものである。いつもの靴屋へ行って、気に入りの帽子屋へ行って、大抵は木村屋で食事をして。昔はそんな日曜日の過ごし方があった。あの頃の銀座はのんびりしたもので、そんな家族連れが沢山いた。昨日見た銀座は、そんな面影はなく、真新しくて近代的で、昔の名残を見つけることは出来なかった。私が覚えている銀座は何処へ行った。と目を丸くして歩いた。両親と共に歩いた銀座とも、大人になってから姉と買い物に来た銀座とも違った。それは時代は確実に前に進んでいるのだと私に教えているようだった。歌舞伎座を横目に銀座を突き抜けて築地へ行くと、夕方の為に店の殆どが扉を硬く閉じていた。しかし、扉が硬く閉じられていたのは夕方だったからではないらしい。築地の移転。豊洲への移転。それを機に店を畳んだ人達が沢山いるらしい。東京のシンボルのひとつがまた変化しようとしていた。変化をむやみに怖がる必要は無いけれど、しかしよく考えてすることが大切だ。私は、魚市場を築地に残すことをと切望する。何処でもよいと思うのはあまりに勝手すぎやしないか。

山の日の夕方、若い夫婦が5人の子供を連れて歩いているのを見かけた。大きい子は10歳くらい、小さい子は3歳くらい。何処かへ行ってきたらしい。それぞれが小さなリュックを背負い、足元には歩きやすい靴。遠足だったらしい。皆、歩き疲れているのかのんびり歩きだ。と、子供たちが楽しそうな声で歌いだした。ルン、ルン、ルン。何時までも続くルンルンの歌。その様子は今日一日がとても楽しかったことの表れのようで、一団を追い越す私にも伝わってきて嬉しくなった。若い父親が大きな声で言った。何だか幼稚園の遠足みたいだなあ。しかしその声は嬉しそうで、ふと振り返ってみたら、顔から沢山の笑みが溢れていた。山の日の祝日を堪能した家族、此処に見つけた。




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