休暇の過ごし方

11月最後の日。今までも、もう冬であると感じていたが、ボローニャに雪が降って決定的に冬であることを感じる。町を歩きながら耳を澄ますとそんな声があちらからもこちらからも聞えてくるから、全くの私の思い込みではなさそうだ。今の時期の私達の楽しみといったらそれは勿論クリスマス休暇で、クリスマス前から年明けにかけての10日間ほどの休みをどんな風に過ごすか、そんなことばかりを考える。決して悪いことではない。そういうことで暗くて寒い時節を乗り越えようと言う訳だから。つまらない時期にも小さな楽しみを見つけよう、そういう気持ちって大切だと思う。文句ばかり言っているよりは遥かにポジティブというものだ。早い人はもう旅行の予約が済んでいるし、間際に安い航空券を購入して何処かにひとっ飛びの人もいるだろう。イタリア国内の親戚家族を訪ねる人もいれば、私のようにボローニャから出る予定は一切無く、ひたすら家族と過ごす予定の人もいる。スタイルこそ違うけど、そのどれもが楽しい休暇の過ごし方。もっとも、正直言ってしまえば何処へも行かずに休暇を過ごすのは私の好みの枠外で、何処かへ行きたいよう、と思っていたのだけど。例えば寒いけれどそれすら美しさの一部に違いないウィーンへ、ボローニャよりもずっと温暖でひょっとすれば青空を望めるだろうバルセロナへ、それとも友人達の居るブダペストで美味しい赤ワインを頂きながらお喋りを楽しむとか。考えれば色んな案が切りなく浮かんでくるけれど、まあいいさ、ボローニャに居座る休暇もたまには宜しい。だから私にとっても楽しい休暇の過ごし方、と言っても決して偽りではない。うん、偽りにならなければ良いと思う。ところで先日面白い店を見つけた。カフェなのかオステリアなのか、多分レストランではないと思うけど。小さな店は横に細長くて横へ横へと座席が続く。どうやら南イタリアのものを楽しませる店らしいが、つかみ所のない店だ。その店の道を挟んで向かい側のポルティコの下に席が設けられていた。多分この店のテラス席なるものに違いなく、しかし誰も座っていないから本当のところは良く分からない。誰か客人が座ったら、店から人が出てきて道を渡って注文を取りにくるのだろうか。そんな様子を想像したら愉快な気分になった。そうだ、このクリスマス休暇の間に一度この店に入ってみよう。誰かを誘って入るのも良いだろうし、ひとりで入るのも良さそうな店だもの。そうだ、この休暇はボローニャ探索をしてみることにしよう。小さな気になる、を開いていくボローニャ探索。歩いてみよう冬のボローニャを、そんな楽しみをコートのポケットに沢山詰め込んで。

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セーターと彼女

11月もそろそろ終わりで寒さが一段と増している。昨日の寒さといったらなかった。そんな中、私はバスに乗って旧市街へ。勿論、首の回りをぐるぐる巻いて帽子で頭を包み、しっかり防寒しての外出だ。土曜日は私にとって大切な週末の一日なので、家の中でじっとしていることが出来ないのだ。天気が良い土曜日、そしてチョコショウ開催中とあってボローニャ旧市街は華やいでいた。私はといえば最近美味しいチョコレートの詰め合わせを頂いて毎日ひとつふたつと摂取している為、今回のチョコショウは単に見て周るだけ。購入したら最後、食べたくなるに決まっているから、我慢我慢と自分に言い聞かせてのチョコレート鑑賞。そうまでしても見て周りたいのには理由があって、私が無類のチョコレート好きであることは勿論だけど、毎年これを見て周ることで季節を感じることが出来るからだ。冬の足音が聞えるような、秋が急ぎ足で去っていくような気配。これが終わるとPiazza Nettuno の端っこにクリスマスツリーが建ち、長い冬の夕方は橙色の光の波で輝く。さて、このところ私はセーターを探しているが、探している時に限ってなかなか良いものに出会わない。私が買い物をするときはいつもそんな感じで、探していない時やそんな余裕がないと気に限って大変相性の良いものに出会う。そんな訳で私のセーター探しはもう3週間も続いていた。ちょっとくらいバジェットを超えても良いのだ。兎に角気に入ったものでなくてはいけない。気に入れば大切に扱って何年も活躍して貰えるのだから。ふと思いついて塔のすぐ近くの店に入ってみた。この店の存在はもう長いこと知っていたが、こうして入ったのは初めてだった。私の年齢よりもずっと年上の女性が入る店だと思い込んでいたからだ。それなのに店に入ってみたのは、中に居た店の人がちょっといい感じだったからだ。年齢は多分私より上で、金髪のストレートヘアをおかっぱに切っていた。彼女は店の中央に椅子を置いて座っていた。店には客人はひとりも居なくて、彼女は本を読んでいたのだ。私が入り口の扉を押して入っていくと、彼女はふと顔を上げて優しい声でBuongiorno と挨拶した。メタルフレームのごく普通の眼鏡の奥には栗色の穏やかな瞳が笑っていた。彼女が本を閉じて立ち上がったので、訊いてみた。カシミアのセーターはありますか。ああ、あります、あります。彼女はそう言って私を店の奥に招くと、幾つものセーターをカウンターに並べた。そのうちのひとつは厚みがあって素肌にそのまま来ても十分暖かそうだった。試着してみると自分の印象にぴたりと来て、やっと探していたものに出会えたような気がした。しかし値札を見てみたらちょっとどころか随分高い。冬の割引まで待った方が宜しいようだが、待った所でこれがあるとも限らないだろう。さて、どうしたものかな。と悩んだ顔をして試着室から出てきたら、店の彼女が言った。昨日と今日は二割引くんです。だから気に入ったのあったら大変お得なんです。こういうのを運命の出会いというのだろう、と勝手に解釈して勘定を済ませた。彼女がセーターを包んでいる間、私達は他愛ない話をした。彼女は俗に言う華やかさはないけれど聡明な印象の女性で、話し相手をポジティブな気持ちにさせる能力に長けているようだった。いや、能力と呼ぶべきではないかもしれない。彼女の人間性なのかもしれない。それから何か懐かしい感じのする、今までも知り合いだったような気持ちにさせる女性。私が店に入る前に感じた、ちょっといい感じ、は当たったようだ。ボローニャに住んでいるのかと聞かれたので、住んでいるのはピアノーロだけど毎日ボローニャに来るんです、と答えた。すると彼女は、それならまた何処かで会うかもしれないわね、と嬉しそうな顔をした。そうね、何処かで会ったら今度はお茶でもしましょうよ。私はそう言葉を残して店を出た。あんな感じの女性になりたい。久し振りにそんな気持ちになって気分がよかった。雨も雪も降らない土曜日。とても貴重な土曜日だった。
11月28日。日曜日。昨日の天気が嘘だったように思える。昼前に降り始めた雪があっという間にピアノーロを白く包んだ。いつまで降るのか。今のところ止む気配は無い。まだ11月が終わっていないのに。少し早すぎるのではないかと空に抗議してみるが、降り落ちる雪にかき消されて声は届かないようである。

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ボローニャの冬

私が初めて迎えたイタリアの冬はとても寒かった。もっともその途中で私はボローニャからローマに移り住んだので、初めての冬の経験はたったの半分と言ってよかった。ボローニャで迎えた冬の寒さといったら無かった。友人知人がこぞって、あなた、もっと暖かい装いをしないといけないわよ、と私に注意を促したものだ。私はそれまで冬でも太陽と青空に恵まれることの多い、ボローニャに比べたら格段に過ごしやすい町に暮らしていたから、ボローニャの冬への準備が全く出来ていなかったのだ。それで大急ぎで暖かいウールのコートを入手して、やっと周囲の人々を安心させることに成功した。初めてのボローニャの冬の印象は、少し寂しいものだった。いや、私が寂しかったからかもしれない。私にはまだ心を開いて話せる友達が、この町には居なかったから。私には相棒が居たが、相棒ひとりだけだった。ある冬の日、私はバスに乗って旧市街へ行った。当時私は田舎に暮らしていたので、旧市街へ行くのもひと苦労だった。何しろ家から停留所まで徒歩でゆうに30分かかったし、其処から旧市街へも小一時間掛かったからだ。吹きっさらしの中でバスを待つのは辛かった。でも、そうまでしてもバスに乗って出掛けたかった。そうでも無ければ私は此処に埋もれてしまうような気がしたからだった。平日の旧市街は思いのほか人が居なかった。同じ平日でも春や夏、秋には賑やかな人の声が聞えてきたのに。ポルティコの下を歩く人達は皆無口で、コツン、コツンと靴の踵の音が聞えるだけだった。冷たい音が響き渡る、静かな冬の平日。私の寂しい気持ちと混ざってとても寂しい風景に見えた。今は少し違う。誰も話をしてなくても、靴の踵の音だけが鳴り響いても、あの頃とは違うものを感じる。皆それぞれが色んなことを思い、色んなことに直面しながら生活している、地に足をつけて。私も彼女も、彼も。そういうことに私が慣れたせいなのか、私が強くなったからなのか、それは私には分からないけど。
近いうちに雪が降るのかもしれない。雪が其処まで来ている予感、雪の匂いがするような。

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路地へ

旧市街に寄り道したら、チョコショウが始まっていた。もう先週から白いテントが街の中心に幾つも建てられて、準備が着々と進んでいたのだ。そうして多分ボローニャの沢山の人がこれを楽しみにしていたのではないかと思う。毎年この時期に開かれるもののテントが建つ場所は毎回違って、昨年はPiazza Maggiore の真ん中に大きなテントが張られていた。その中に幾つもの店が詰め込まれたようにして並んでいたので大変な混雑であった。私のような混雑が嫌いな人は、やれやれと溜息をつきながら1分も経たぬうちにテントから脱出するしかなかった。それはそれで賑わった雰囲気が味わえるものの、やはり少々度が過ぎて混雑していた。主催者も考えたのか、今年は旧市街に点在させて混雑を避ける工夫がなされていた。週末でないせいか人は疎ら。それとも急に寒くなって人々が家に閉じ篭ってしまったのかもしれない。何にしても本番は金曜日からの週末の3日間で、雨さえ降らなければ大賑わいになるだろう。そんなテントを背に私の関心は常に路地の方へと。少しずつクリスマスのイルミネーションが施されていくボローニャの街。もう少ししたら光の波が押し寄せる。寒ければ寒いほど美しく見えるのは本当に不思議。そんなことを思いながら既に日没時を過ぎたボローニャの街を歩き続けた。

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ガラス越しのご馳走

ボローニャ旧市街の、そのまた中心にあるこの店。私はイタリアに暮らすようになってから食の好みが少し変わった。昔は完全な甘党で塩気のものには見向きもしなかったのに。もし一列に甘いものとチーズや生ハムが並んでいたら私はまず初めにチーズに手を出して、それから生ハム、最後に甘いものを摘まむだろう。そんな私はこんな店の前を通ると立ち止まって観察せずにはいられない。特別なものでなくてもいいから、良く熟したチーズを頬張りながらまろやかな舌触りの赤ワイン。これだけで十分ご馳走だ。

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