
忙しかった毎日に終止符を打ち、夏休みを迎えた。第一日目。数年前までは休みに入った翌日には町を脱出したものだ。例えば5年前の夏などは仕事を終えた金曜日の夜中に車に乗ってクロアチアへ向った。それはイタリアからクロアチアの半島までの陸路がとても混み合うと聞いたからで、クロアチア人の友人の勧めで夜中に出発することになったのだ。真夜中のドライブは道が空いていて快適、と思っていたのに同じ考えの人が沢山いたらしく予想を反して混んでいた。途中で何度も車を止めてはカッフェを飲んで目を覚ました。夜中のドライブは好きじゃないと思ったが、トリエステの海岸沿いの漁師の為に早く店を開ける小さなバールで夜が今まさに明ける瞬間を見て、その場に居合わせることが出来たことを嬉しく思った。そして夜中のドライブも案外悪くないものだ、と店に居た人達と頷き合った。疲れていたけれど淹れたてのカッフェと先ほど焼いたのだろう、まだ温かいブリオッシュが私の血となり肉となりエネルギーが満ちていくのを感じた。夜明けは良い。また新しい1日が始まるのだ。こんな瞬間に居合わすのは、私の人生の中で数えるくらいしかない。そして多分これからも。さて、この夏休みはのんびり始まった。いつもより大分遅く起床してボローニャ旧市街へ行った。近頃は7月らしくない涼しさで快適。空は青く高く快晴だけど暑くない。散策日和とはこういうのを指すのだろう。そんなことを思いながら広場から広場へ、路地から路地へ。そして此処に辿り着いた。15年前知り合った年上の外国人女性がこの少し先に住んでいた。彼女は1600年代の建物の一角に住んでいて、壁や床がとんでもなく分厚くて、隣近所の物音が全く聞えないのだと言った。それはとても嬉しいことではあるけれど、時々少し怖くなる。外の音が全然聞えないって隔絶されたような気分に陥るのよ。ねえ、分かる? そう彼女は私に言ったものだ。ボローニャ旧市街のあちらこちらに中世の名残を見つけることが出来るけど、Via Marsala はその中でも群を抜いているのではないだろうか。少なくとも私はこの古い通りが大好きでよく足を運ぶ。この木で作られたポルティコの下を歩くのは私にとっては大変な歓び。何百年も前の人達と時間というか空間というか、兎に角そんな類のものを共有しているような不思議な気分になるのである。私がボローニャに暮らしていることを幸運と思う瞬間だ。そういった場所は勿論ボローニャだけではない。この夏休みはそんな場所を探しに旅に出る。でもあと数日お預け。それまで沢山元気を蓄えておかなくては。