旧市街へ

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冬期休暇まで残り2週間ともなれば気合が入るもので、苦手な月曜日もなんのその。という自分を都合のよい性格だと思うのは毎年のことだ。午後に頭痛が始まりどうなることかと案じたものの、どうにかなるものである。帰る頃には頭痛はおさまり、従ってバスに乗って旧市街へ行った。クリスマスカードを持って郵便局へ。簡単には済まないと予想していたが、しかし30分も待つことになろうとは思いもよらなかった。其れもこれも昔のように煙草屋さんで郵便切手を買うことが出来なくなったからだ。郵便物を送る人が少ないことが生み出した現実、と私は呼ぶ。郵便局を出ると目の前にはフランス市場が。当然素通りなど出来る筈がなく、温かいワインを購入して、ちびちびやりながら観て回った。チーズの屋台で見つけたのは、刻んだ山栗が入っているチーズ。胡桃が入っているチーズは見たことがあるが、山栗は初めてだった。見ればかなりの高額がつけられていて、店の人に声を掛けようとしたのに言葉を引っ込めてしまった。トリュフ入りのペコリーノチーズの倍ほどの値段がするのは何故だろう。何か理由があるに違いない。それは食べてみなければ分からないのかもしれない。などと、独りでぐるぐる考えながら結局買わずに帰りのバスに乗ってしまった。まだ2週間ある。もう少し考えてもよいだろう。

それにしたってボローニャの街は光の海。車窓の外の光の流線を眺めながら思う。幸せな風景。そして美しいものを美しいと思える私も幸せ者だ。其れに気付いた喜びを、誰かと分かち合いたいと思う。




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12月8日

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今日はいつもの日曜日ではない。聖母受胎祭という名のキリスト教に纏わる祝日。それが日曜日に重なった。実を言えば多くの人が今日という日が日曜日に重なったことを多少ながらも残念に思っている。私も其の多くの人のひとりである。伝統的に言うと今日がクリスマスの飾りを始める日。昔、と言ってもたかだか10年ほど前までボローニャもその伝統に従っていたが、いつの間にか11月中旬を過ぎると、まるで待ちきれないかのように、クリスマスの照明を設置したりマッジョーレ広場にクリスマスツリーが登場するようになった。そうすることで市民の気持ちが明るくなるのかもしれない。何しろ物騒な世の中になったから。しかし伝統を守り続ける相棒と私にには、今日がクリスマスツリーを飾る日。朝から大騒ぎして収納庫の中から大きな箱を取り出して、飾りつけをした。このクリスマスツリーは10年ほど前に相棒の知人が譲ってくれたもの。大き過ぎるからとのことだったが、それは単なる作り上げた言い訳みたいなもの。何しろあの家は驚くほど大きくて、多くなクリスマスツリーを幾つ飾ってもスペースは充分なのだから。クリスマスツリーを飾らないと相棒、飾りたい妻に、知人はていの良い言い訳を作って相棒に持ち帰らせたのだ。あれから12月8日はクリスマスツリーを飾る日となった。10年もの間に増え続けた小さな飾りは、今では何倍にも膨れ上がり100個を超えるほどにもなった。昨年相棒が持ち帰ったヴィンテージ物と私が骨董品市で購入した同じ時代のヴィンテージ物。これらがとても良い雰囲気でますます魅力を増したクリスマスツリー。何しろツリーが自分より遥かに高いし、飾るものが小さい上に多いので、2時間近く掛り腕も腰もガタガタだけど、居間の一角に温かく輝く姿を見ていると、そんな疲れも忘れてしまう。5歳になった大きな猫が、ツリーのよじ登らなければよいけれど。

今日はもうひとつしたいことがある。カードを書くことだ。先日、わざわざそれを購入するだけの為に旧市街へ行った。ガルガネッリと呼ばれるその界隈に店がある。この辺りには昔有名なガルガネッリという名のレストランがあったので、その名前が残ったのかもしれないし、若しくは昔からガルガネッリと呼ばれる界隈だったところに、その名を取って店を開いたのかもしれないが、多分90歳くらいの人に訊ねてみなければ分からないことだ。其れも昔の旧市街に詳しい人達。私の周囲には、残念ながらそうした人達は、いない。兎に角、ガルガネッリ界隈の店に行ったのだ。普通の店はどんな知店の規模が小さくても商店名を標すものだが、此の店ときたら看板に文房具屋と書いただけで、何処にも店の名は書かれていない。全く不思議な店なのだ。不思議なのはそればかりでなく、店の中が凄いことになっている。客は扉を押し開けて中に入るが、それ以上中に進むことが出来ない。まるで倉庫のように物が多く、それもかなり乱雑に置かれていて、店の人が何処に何が置かれているのかを把握しているのならば、それは驚くべきことだと思うほどの状況なのだ。だから客は店に入ったところで、何を欲しいか告げて探してもらうことになる。私は先客を待っている間に、偶然置かれていたカードに一目惚れした。これ。今年はこれにしよう! それで自分の番が来るなりそのことを告げ、同じものを3枚欲しいと店の人に頼んだ。ああ、これね。此れは本当に可愛いの。と店の人は言いながら同じものを探す。ところだ見つからない。ああだ、こうだ言いながら探しているが見つからない。良いものを置いているけれど商品管理が良くないのがこの店の欠点みたいなもの。探すこと15分。諦めて他の2枚は似たようなもので間に合わせようと思ったところで、店の人が喜びの声を上げた。ありましたよ! そうして3枚のクリスマスカードを手に入れた。うん、時間はかかったけれど、やはりこの店はいいものを置いている。だから商品管理がどうであろうと、私はカードを購入する時はこの店に足を運ぶのだ。あの山のような商品は宝の山。恐らく多くの客がそう思っているに違いない。あんな小さな店で、あんな看板の素っ気なくて、探すのに時間が掛かるけれど、多くの店が不況に風に吹かれて閉まっていくのに、あの店だけは残っている。何時から在るかは分からないが、少なくとも20年以上は続いている。もっと前からあったかもしれない、私が気付かなかっただけで。それどころか、私がボローニャに来る前から存在していたのかもしれない。その可能性は充分ある。

さあ、カードを書こう。そして明日はカードを持って郵便局へ行くのだ。旧市街の大きな郵便局へ。その帰りにフランス市場に立ち寄って、温かいワインでも頂いたら、寒さも吹き飛ぶことだろう。




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冬の一日

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空が晴れた土曜日。12月7日になったとカレンダーを眺めながら思う。計画的行かないとクリスマスを迎える頃にばたばたする。すべきこと、したいことは先延ばしにせずに積極的行かねばならぬだろう。そう思って土曜日なのに早く起きた。今日はしたいことが幾つもあるのだから。

少し溜めてしまった衣類をクリーニング屋さんに持ち込んだ。溜めといたくせに一週間後には引き取りたいと申し出る私に女主人は笑いながら頷く。大丈夫、一週間後には全部仕上げておくから、と。その足で衣類のリサイクルボックスへ。一界隈にひとつくらいは設けられているこの大きな鼠色の鉄の箱に、私は不要な衣類を入れることが多い。古くなったもの。小さくなったもの。もう飽きてしまったもの。必要な人が使ってくれるならこんな嬉しいことは無い。しかしこのようにして定期的にクローゼットの衣類を確認してはリサイクルに出しているので、気付けば随分と衣類が少なくなってしまった。もっとも、こんなことでもせねば気に入っているからとか、まだ着られるからと10年も15年も着続けてしまうから、時々こんな風にして処分するのは良いことだと思っている。
小さな用事をふたつ済ませて、旧市街へ行った。髪を切るのだ。12月という華やかな時期に頭髪がぼさぼさはよろしくない。夏頃から予約が難しくなった店に、随分前に電話を入れておいたのだ。今日より早くても遅くても駄目。お願い、今日の正午にお願い、と。夏に店の人がふたり一緒に辞めていってから、一日に対応できる人数が限られるようになった。同時に客層にも変化があり、店主はどう考えているか知らないけれど、私はこれでよかったのではないかと思っている。落ち着いた雰囲気。丁寧な雰囲気になったからだ。今は店主と助手の若い女性だけで仕事を回しているのを、私はポジティブに受け取っていると店主に言うと、一瞬手を止めて鏡越しに私を見つめ、へええ、そんな風に思っている人が居るなんて考えても居なかったよ、と言った。どちらにしても辞めていった人が帰ってくることは無く、後戻りなど出来ないのだから、現在の状況で気持ちよく仕事をして客が喜んでくれればよいのではないかと言葉を続ける私に、君は見掛けに寄らず観察力があって色んなことを考えているんだねと店主は言った。そして確かにその通りだ、本当にその通りだよ、と鏡に映る私に言葉を返した。それにしたって、見掛けによらずとは。と思ったが、これに関しては追及しないことにした。私が傍目にどんな人間に見えるかなんて、怖くて訊くことなど出来ない。
髪を切るとクリスマスを迎える準備が出来たような気分になったが、伝統に従ってクリスマスツリーを飾るのは12月8日、明日である。此れがとても楽しいながら案外大変な作業で、歓喜する猫を宥めながらの飾りつけには軽く2時間を要する。その後の疲労感はとても大きく、ひと眠りしたくなる程である。それでも明日が楽しみなのは、私がクリスマスツリーを愛しているからだ。喜びとか、感謝とか。幸せとか、楽しみとか。それらが詰まっているのが私のクリスマスツリー。ああ、明日が待ち遠しい。

それにしても寒い。冬らしい一日だった。空が良く晴れていた分だけ、陽が落ちた後の空の暗さが心に沁みる。窓辺に佇む猫が見ているのは空に輝く月。冬の月は美しい。触ったら手が切れてしまいそうなほどシャープに輝くのが冬の月。満月まであと5日。




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吐く息

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12月になった途端、寒さが増したようである。例年通りの冬の装い。ニットの帽子にオーバーコート、勿論ショートブーツで足首まで包み、数日前から手袋も着用し始めた。なのに寒い。特にバスを待っている時の寒さと言ったらない。じっとしていたら凍りそうなので、熊のようにうろうろ歩く。そんな私の様子を見てニヤリと笑ったのが年の頃はもう70をとっくに超えているに違いない男性。黒いオーバーコートを着て、形の良いフェルト帽を被っていた。笑わなければ第二次世界大戦中に欧羅巴の色んなところに出没した目つきの鋭い秘密調査員に見えるが、頬を緩めて笑った顔は品の良い老人だ。寒くてじっとなどしていられないねえ、お嬢さん。彼は私にそんな風に話しかけた。周囲が暗いからとはいえ、お嬢さんとは驚いたが、感じの良い其の言い方に私は表情を緩めて言った、立ち止まったら凍り付いてしまいそう、と。イタリアでは行く先々で丁度居合わせた人と話すことがよくある。そういうことで長く待たされるイライラを紛らわせたり、気持ちをなだめたり、バスや列車の長い乗車時間を楽しく過ごすのだ。はーっと夜空に向かって息を吐いてみたら、白い煙となって飛んで行った。こういうことをすると子供みたいだとよく人から言われるが、こうすることで寒さの度合いが分かるのだ。子供の頃からちっとも変っていない習慣のひとつだから、子供のようだというコメントはあながち間違っていないと言える。ふふふ、と笑ったのはやはり例の老人で、何やら私のすることが面白くてならないらしい。そのうち老人が待っていたバスが来た。彼はちょっと帽子のつばを指で動かして私に挨拶を送るとバスに乗りこんで見えなくなった。冬の夜の停留所での出来事。イタリアに居ると人間との接点が多く感じられるのは、こんなことが理由なのだろう。人間との接点。私は、そういうのが案外好きだ。




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ちょっと寄り道

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12月は、うっかりすると直ぐに日が経ってしまう。夜の時間が長いからだろうか。それとも年の瀬で忙しいからだろうか。兎に角毎年気がつくと中旬になっていて、慌てることになる。忙しいのは良いとしても、楽しいこともしなくてはね、と言うのが私の信条みたいなもの。仕事や家や用事で忙しいからこそ、楽しくなくてはやっていられない。今日は特にそんな気分の一日で、だからという訳ではないけれど、少し寄り道した。

バスを途中で下車するのはあまり好きな方ではないが、何しろ店が途中に在るので仕方あるまい。まずは靴の修理屋さんに立ち寄った。長年通った店ではなくて、なかなか腕が良いと言う噂を聞いで一度靴を持ち込んでみたら確かになかなか良かったので、最近私の気に入りに仲間入りした店である。大好きな靴の調子が悪いばかりでなく、其れを気にしながら歩いていたら脚が痛くなってしまった。もっと早く修理に出すべきだったと思う。ところで此処の店主は本当に気さくで、もしバールか何処かで知り合っていたら、まさかこんなに良い仕事をする靴の修理職人とは想像もつくまい。それくらい彼は調子が良くて軽快で、軽い。今日の夕方もそんな調子で私を迎えた。しかし私が持ち込んだ靴を見るなり、自分がこの秋に踵を直した靴だと思いだしたらしく、急に神妙になり、そして何か問題があったのかと訊いた。いいや、踵には問題はないが、靴の裏に問題がある。この靴はかなり履き込んでいるが大の気に入りでまだまだ履くつもりだから修理してほしい。私がそう言って説明すると、ふんふんふん、と頷きながら靴の裏を観察した。しかも金曜日には引き取りたい、あまり時間は無いが出来るだろうかと店主に訊くと、大丈夫だ、任しておけと言う。但し、店は18時半で閉まるから要注意。遅くまで仕事をするのは嫌なんだよ、と店主が言うので居合わせた客たちが笑った。金曜日の夕方。確かに一刻も早く仕事を終えて家族や友人達と過ごしたいに違いない。私にしても然り。18時半までに店に立ち寄ることを約束して店を出た。
丁度やって来たバスに乗りこみ、旧市街の塔の下まで行こうと思ったが、もう一度途中下車してしまった。今日は特別冷え込んで4度しかない。吐く息が白い煙となって空に立ち昇る程である。なのに、この寒い日に、ジェラートが欲しくなった。実を言えば昼頃からずっとジェラートのことを考えていて、しかし其れも夕方外に出るとあまりの冷え込みに気が変わり、わざわざこんな寒い日にジェラートを食べなくてもよろしい、と自分に言い聞かせていたのだ。なのに、やはりジェラートが心の大部分を占めていて、バスが旧市街に入るなり下車してしまった。ジェラタウロと言う名の此の店には一頃足繁く通ったが、この夏は足が遠のいていた。店はガラガラだった。温かいチョコレートや甘い菓子も置いているから寒い季節も客が絶えないのに、何故か客がひとりも居ず、店主は暇そうに店内のテーブル席を綺麗にしていた。こんな寒い日だからきっと温かい飲み物を注文すると思ったのだろう。だから私がジェラートを注文すると、店主は目を丸くした。寒くてもジェラートは美味しいからと言う私に、そうかい、そんなにジェラートが好きなのかい、と店主は笑った。南瓜とシナモンのジェラートを小さな器に山盛り持ってくれた。テーブル席に着いて堪能していると、常連さんと見受けられる女性客が入ってきて、私を見るなり店主同様に目を丸くした。彼女はジェラートが好きなんだよ、と言ったのは店主で、それにしたって、と言ったのは女性客だった。その会話を聞きながら、やはりこの寒い日にジェラートは無謀だったかと思ったものだが、果たして店を出ると先ほどの倍も寒く感じられて、歩きながら笑いが零れた。ははは。本当にお馬鹿さん。寒いったらありゃしない。もしも丁度良くバスが来て車内に流れ込むことが出来なかったら、私は停留所で凍り付いていただろう。しかしこんな小さな寄り道が私の楽しみで、忙しい毎日に花を添える。花と言うよりも、いい匂いのオイルみたいなものだろうか。例えばラヴァンダのオイルとか。

それにしても今夜は本当に冷える。零度まで下がるとの話だが、案外もっと下がるのかもしれない。




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